最新記事

中東

オバマが恐れるムバラク後のエジプト

不人気なエジプト大統領に長年肩入れしてきたアメリカだが、反米派の新政権が誕生すれば中東で新たな「頭痛のタネ」を抱え込むことに

2011年1月31日(月)19時25分
カイ・バード

混乱は続く エジプトの首都カイロで広がる反政府デモは、アラブ世界に訪れる大きな変化の前兆か(1月28日) Goran Tomasevic-Reuters

 エジプトで大規模な反政府デモが続くなか、バラク・オバマ米大統領は「国王問題」に直面している。民主化運動が高まりを見せていた1978年のイランで、当時のジミー・カーター米大統領が直面したジレンマだ。長年アメリカの後ろ盾で独裁政権を敷いてきたイランのモハマド・レザ・パーレビ国王を支援し続けるべきか、それとも国王を見限って、民主化を求めて声を上げ始めた民衆を支持すべきか――。

 カーターは両方をやってのけようと試みた。パーレビ国王への支援体制を軌道修正し、政治的な自由を呼びかけ、非武装のデモ参加者に対して武力行使を行わないよう警告した。ところが79年のイラン革命でパーレビ政権は倒され、パーレビに肩入れしてきたアメリカは新政権から激しい反発を受けた。

 オバマは今、カーターと同じ道を選ぼうとしているように見える。その先には、カーターの時と同じ困難が待っているだろう。

 エジプトの反政府デモは、30年間続いたムバラク政権の終焉を物語っている。オバマ政権が恐れているのは、次の政権を反欧米のイスラム主義勢力が握ることだ。選挙を行えば、イスラム原理主義勢力のムスリム同胞団が勝利する可能性が高い。

反米政権でも支持する覚悟があるか

 非合法団体であるムスリム同胞団は、政党としての活動を禁じられている。しかし公正な選挙が実施されれば、彼らが最多の議席を獲得するだろうことが世論調査から見て取れる。

 ムスリム同胞団が政権を握れば、エジプト国民は嫌でも気付くだろう。30年もの間、無能でカリスマに欠けるムバラクが大統領でいられたのは、何十億ドルもの軍事支援を行ってきたアメリカのおかげだ、と。

 オバマはこの窮状にどう対応すべきか。まずはアラブの王や独裁者に甘い顔をする悪しき習慣を断ち切って、変化と改革を志す新勢力への支持を表明することが重要だ。

 他のアラブ諸国でも、エジプトに似た動きが広がりつつある。アメリカは、合法な選挙で生まれたらどんな政権でも──たとえムスリム同胞団でも──支持するのか。オバマはこの点を明確にする必要がある。

イスラエルとの「冷たい平和」が終わる

 09年6月にエジプトの首都カイロで行った演説で、オバマはこう語った。「アメリカは、たとえ自らが同意できない意見であっても、世界で平和的・合法的な意見を述べる権利を尊重する。そして、その国の全国民を尊重する統治を行うなら、選挙で選ばれた平和的な政府をすべて歓迎する」

 オバマは今、この言葉が口先だけではなかったことを示さなければならないが、その先には難題が待ち受けている。ムバラク政権の終焉は、エジプトとイスラエルの「冷たい平和」の時代が終わることを意味する。ムスリム同胞団はもちろん、どんな勢力が新政権を率いることになっても、同胞のイスラム原理主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの境界封鎖が続く状況を許さないだろう。

 アラブ世界に変化が訪れようとしている。もはやそれを押さえ込むのは不可能だろう。だからこそオバマは、理想だけでなく現実的に考えても、エジプトの民衆を支持する姿勢を明確にすべきだ。カーターのような「八方美人」はもう通用しない。

Slate.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い

ビジネス

英建設業PMI、11月は39.4 20年5月以来の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中