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SNS革命

政府はどこまでツイッターを封じられるか

ソーシャルメディアを使った反政府デモが広がるアラブ諸国のサイバー検閲は抜け穴だらけ

2011年1月27日(木)17時49分
ジョシュア・キーティング

つぶやき禁止? 強権政府が思うほどネットは甘くない

 チュニジアの「ジャスミン革命」が引き金となって反政府デモが頻発している中東で、今週になって火花を散らしているのがエジプト。そしてそのデモの主役は、今月初めのチュニジアの民衆革命や昨年のイランの反政府デモのときと同様、ツイッターやフェースブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)だ。

 SNSによるデモ拡大を恐れたエジプト政府は、すぐに対抗処置に出た。「怒りの日」と名付けて大規模デモが行われた1月25日、ツイッター社は同サイトへのアクセスが遮断されたと発表した。だがここで疑問が1つ。政府がツイッターをブロックすることなど、本当にできるのだろうか?

 答えはイエス。ただし、完全にはできない。エジプト政府はおそらく、Twitter.comへのアクセスを遮断した。同国でネット通信サービスを独占しているTEデータ社に協力を頼んだのだろう。政府は25日午後には、デモが行われている地域一帯のワイヤレス回線を遮断。デモ隊がリアルタイムでネットにアクセスするのを防ぐためだ(フェースブックへのアクセス障害も見られたが、フェースブック社は否定)。だが、26日夜には再びTwitter.comのサイトにアクセスできるようになったようだ。

検閲をかいくぐる裏技がいくつも

 さて、サイバー検閲に努めたエジプト政府には悪いが、現在はTwitter.comにアクセスしなくてもツイッターでつぶやけるツールが大量に出回っている。ツイッター社のプログラムを使って第3者が開発したこうしたサービスは、エジプトでも利用されている。履歴書公開サイトのリンクドインを使ってツイートが続けられているとの情報もある。

 さらに言えば、政府の妨害があるとはいえ、Twitter.comへのアクセス自体が不可能というわけではない。同サイトには複数のIPアドレスがあり、政府がそのすべてを遮断したわけではないからだ。ネットに詳しいユーザーたちは、Twitter.comのドメイン名ではなく、他のIPアドレスにアクセスすることで今もツイッターを利用している。また、エジプト国外からアクセスしていると見せかけるVPN(仮想プライベートネットワーク)を使うという手もある。

 中国やイランとは違い、それほど厳格なネット検閲を行ってこなかったエジプト政府が、ツイッター遮断に踏み切ったというのは、今回のデモを深刻に捉えている証拠だろう。それでも、その取締り方に計画性は見られない。例えば、携帯電話からフェースブックに動画をアップするBambuserというサイトがブロックされている一方で、デモ隊がフル活用しているYouTubeは開放されたままだ。

イランでは「サイバー軍」も参戦

 チュニジアやイランでは、SNSの影響を警戒してエジプトより厳格な措置がとられた。チュニジアでは、一部のネットユーザーのログイン情報やパスワードが不正に入手されていたことが分かっている。イランでは、政府とつながりがあるとされる「イラン・サイバー軍」がツイッターのサイトをハッキングし、代わりに反米プロパガンダを表示させた。

 エジプト政府はこれまで、反政府勢力にウェブ上で自由にやりとりさせておいて、それを監視するやり方を好んできた。反政府活動家のサイトを閉鎖するのではなく、彼らのメールアドレスやサイトのパスワードまで聞いて、詳細にモニターしていたこともある。それが突然、手綱を引き締めたのは、チュニジア革命の波紋がイスラム世界に拡大しているなかで、断固たる措置が必要と判断したのだろう。

Reprinted with permission from "Foreign Policy", 27/1/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

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