最新記事

スポーツ

ハマリすぎ注意!「ランニング依存症」

気づいた時にはもう遅い? 速く走りたいランナーの心が摂食障害や深刻な病を招く恐れがある

2011年1月17日(月)14時42分
スティーブ・タトル

ほどほどが難しい? 健康志向の高まりでランニング人気は広まる一方だが、生活との適度なバランスを保つことが重要 Jim Young-Reuters

 ほとんど毎日走っている私でも、マーク・コバート(59)の記録の前にはただ恥じ入るしかない。コバートは「ストリーキングの鉄人」。ここで言うストリーキングとは全裸で走ることではなく、毎日休まずに走ることを意味する(まあ、その両方を同時にできなくもないが)。

 コバートは1968年7月23日から、一日も休まずに走り続けている。これは全米連続ランニング協会(そういう団体があるのだ)が公認している記録だ。通算距離は先頃23万3000キロを超えたから、地球をほぼ6周したことになる。

 挫折の危機もあった。20年前に足を折ったときは「建設作業用のブーツを履き、足を引きずりながら走った」という。

 彼はカリフォルニア州のアンテロープバレー短期大学で、陸上トラック競技のコーチをしている。学生にも自分と同じことをさせているのだろうか。「学生たちには、走らない日をつくるように言っている。(連続ランニング記録は)私が楽しみでやっていることだから」

タイムを上げたい一心で激やせ

 コバートは朝起きると、ランニングシューズ(あるいは建設作業用のブーツ)を履いて走りに出る。怠惰な私たちからみれば称賛すべきことだ。現在、コバートの安静時の心拍数は30台。使っている薬といえばビタミン剤だけだ。

 しかし毎日走っている人たちが、みんなコバートのように健康なわけではない。「ランニング依存症」にかかり、人生に暗い影を落とすこともある。

 ジュリア・ワイゼンボーン(23)がそうだった。高校時代、有望なランナーだった彼女はあと一歩で州大会出場を逃した。悔しくて、最終学年になる前の夏に猛練習をした。

 このとき、体重が軽いほうが速く走れることに気付き、走る距離を増やして食べる量を減らした。60キロ近くあった体重は、1シーズンで40キロに減った。

 狙いどおり記録は短縮できた。大学に入っても1日の摂取カロリー量を1000キロカロリーまで抑え、週に100キロ前後走る生活を続けた。

 ところが、やがてダイエット薬を服用するようになり、摂食障害に悩まされるように。大学4年生になる直前、12キロ走の途中で倒れて意識を失った。医師によれば心臓発作の前兆で、徹底的な治療が必要だった。

「熱中しすぎ」を知らせる危険信号

 ワイゼンボーンはオハイオ州にあるバランス生活センターで、ランニングと健康的な食事について学び始めた。同センターに勤務するスポーツ心理学者のジェニファー・カーターによれば、ランニング依存症を克服するには不安に対処する方法を学ばなくてはならない。摂食障害と同じく、問題となる行動を誘発しているのは不安であり、それと向き合わないことには改善は望めない。

 ワイゼンボーンは大学4年生の1年間、コーチや家族のサポートの下、走ることをやめた。文字どおり一歩も走らなかった。だから卒業してまた走り始めたときには、肉体的にも精神的にもとてもきつかった。
今では週に6日ほど、愛犬と一緒に走っている。きちんと栄養を取るよう注意もしている。

 若いランナーは周りから「痩せたね」と言われたら、危険信号と考えるべきだと、ワイゼンボーンは言う。だがもっと大切なのは、早めに手を打ち、自分から助けを求めることだ。

「私は自分のしたことと一生付き合っていくことになる」と、彼女は言う。「自分の行動がもたらすだろう結果を、いつも本気で考えてほしい」

[2010年12月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オラクル、TikTok米事業継続関与へ 企業連合に

ビジネス

7月第3次産業活動指数は2カ月ぶり上昇、基調判断据

ビジネス

テザー、米居住者向けステーブルコイン「USAT」を

ワールド

焦点:北極圏に送られたロシア活動家、戦争による人手
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中