最新記事

アフリカ

独立に沸くスーダン南部を待つ艱難辛苦

長年の迫害から自由になる日を目前に、帰還民の受け入れや石油資源をめぐる対立といった難問が忘れられている

2011年1月11日(火)15時18分
ダン・モリソン

意思表示 イスラム系が支配する北部からの独立は南部住民の悲願(1月10日) Benedicte Desrus-Reuters

 三日月が浮かぶ夜空の下、ジェームズ・アマンの息子や娘、甥や姪たちは牛笛の演奏に合わせて歌い、踊っていた。スーダン南部の分離・独立を問う住民投票が始まった1月9日のことだ。「自分たちの国が持てることが嬉しい」と、アマンは飛び跳ねる子供たちを見ながら言う。「北部の重圧が消えることを祝って、子供たちも踊っている」

 スーダンでは北部のアラブ系政府(主にイスラム教)と南部の非アラブ系勢力(キリスト教と伝統宗教)の対立で20年以上も続いていた内戦が、05年の和平合意により終結。以来、スーダン南部の指導者たちはほぼすべての点において、北部の指導者たちに出し抜かれてきた。和平後に約束されていた重要省庁のポストや主要州の知事職を与えられず、石油の利益分配も数億ドル規模でごまかされた。

 オマール・アル・バシル大統領率いるアラブ系政権も関与する民族対立により昨年、南部では1000人近くが殺害され、20万人以上が住みかを追われた。汚職が蔓延し、深刻な貧困に苦しむ南部では、公共医療をはじめとする基本的な住民サービスが不足している。しかし住民投票を喜ぶ人々は、こうした問題をすっかり忘れているようだ。

 南部の住民約400万人が参加する投票は、予想通りの結果になるはずだ。投票が終了する1月15日には、南部は正式な独立準備に入るだろう。そして7月9日には新国家として国際社会から認められる。アラブ連盟でさえ、新国家をメンバーとして加盟させることを検討している。

兵士の脅迫で南部を追われるイスラム系住民

 65年間にわたり北部から抑圧を受けてきた南部の人々は、住民投票の実施に必死で取り組んできた。憲法裁判所で住民投票の差し止めが審議された時は、南部スーダン政府のサルバ・キール・マヤルディ大統領が南部出身の裁判官2人を首都ハルツームから呼び戻して、判決を妨害したほどだ。

 一方で、住民投票に向けた動きは南部のアラブ系住民に逆境をもたらした。南部と北部の境界線に位置する上ナイル州フォハールでは、1000人以上のアラブ人が南部兵士の脅迫を受けて、家や土地を捨てて北部ヘ逃げた。

 フォハールのアラブ人は南部最大のディンカ族と良好な関係を保っており、婚姻関係を結ぶケースもある。しかしスーダン人民解放軍(SPLA)の地元指揮官はアラブ人を敵視している。

 SPLAはアラブ人の逮捕や尋問、兵士による夜間訪問などを行い、1人が射殺される事件も起きた。昨年11月、アラブ人が投票登録を開始すると脅迫行為はさらに激化。アラブ系住民の約1割が、土地や家畜を捨てて北部に逃亡した。「彼らは南北統一に投票しないよう、われわれを脅迫した」と、投票登録後に北部へ逃げたアダム・イスマイルは言う。

 イスマイルの家族は、他の250近い家族と共に北部の難民キャンプで2カ月近く暮らしている。一時しのぎだったはずの難民キャンプは、徐々に定住キャンプへと変わりつつある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、日中韓首脳宣言に反発 非核化議論「主権侵害

ビジネス

独IFO業況指数、5月横ばいで予想下回る 改善3カ

ワールド

パプアニューギニア地滑り、2000人以上が生き埋め

ビジネス

EU、輸入天然ガスにメタンの排出規制 30年施行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 9

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 10

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 5

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 10

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中