アングル:拡大する地政学リスク助言産業、イラン戦争勃発で存在感発揮
3月12日、テヘランで、イランの新指導者モジタバ師と故最高指導者ハメネイ師、ホメイニ師が描かれた大きな看板を見る男性。REUTERS/Alaa Al-Marjani
Douglas Gillison Gertrude Chavez-Dreyfuss Michelle Price
[ワシントン/ニューヨーク 12日 ロイター] - 2月28日に米国とイスラエルによる空爆でイランの最高指導者ハメネイ師が殺害される前日に、米ウォール街の企業の多くは既に軍事行動の発生を予期していた。軍や国家安全保障機関の元高官らによる地政学リスク助言会社から「戦争の兆候は明白だ」という警告を受けていたためだ。
地政学リスクのコンサル会社ウェストエグゼック・アドバイザーズのマネジングパートナー、ニティン・チャッダ氏によると、同社は2月27日の米東部時間午後6時ごろには、主要銀行など顧客に「週末に軍事行動が起きる確率は65%」と伝えていた。
同社にとって「(米国とイスラエルが)イランに対して相応の軍事行動を取る意図があることは明白」だった。金融機関からの問い合わせが増え、紛争がどのように展開するかについていくつかの銀行とシナリオ策定も行ったという。
チャッダ氏は米国防総省の元上級顧問だ。後に国務長官となるアントニー・ブリンケン氏らと17年にウェストエグゼックを設立した。上院での情報開示資料に基づく21年の報道によると、顧客には投資銀行ラザード、プライベートエクイティ(PE)大手ブラックストーン、日本のソフトバンクなどを抱えている。
こうした地政学分析への需要は、トランプ政権1期目における米中対立の激化や新型コロナによるサプライチェーン混乱などで急増し、ウクライナ戦争でさらに拡大し続けてきた。
最近の中東情勢危機では株式・債券市場が乱高下し、原油市場が混乱。さらにトランプ氏の外交姿勢が不安定で、方針がころころ変わることから、こうした地政学分析に資金を投じる意味合いが改めて強くなっている。
ウォール街では軍や国家安全保障の元高官の発する情報が飛び交い、投資家や企業はイランの機雷保有状況から半導体産業への波及まで幅広い情報を求めて奔走していると、複数のコンサルタントや銀行関係者、投資家らが話した。
元国防総省上級顧問で地政学コンサル会社キロ・アルファ・ストラテジーズ創業者のエイミー・ミッチェル氏は「米金融業界では近年、国家安全保障と経済安全保障の融合が非常に進んできた。そしてこの流れは加速している」と話す。
<引き金を探せ>
今回のイラン空爆の前に、米国とイランは3週間にわたり核開発抑制を巡って交渉していた。その間、トランプ氏は武力行使をちらつかせ、米軍は中東湾岸地域で軍備を大幅に増強していた。
交渉は2月26日に終了し、突破口は見えなかったものの、話し合いを仲介したオマーンの当局者は「進展があり、数日以内に再開する」と述べていた。
だが、そうなると考えない向きもあった。ウェストエグゼックは米軍の作戦計画そのものを知る立場にはなかったが、同社幹部は計画立案に近い関係者の間で苛立ちが高まっているのを感じ取っていた。さらに他のいくつかの兆候も攻撃が差し迫っていることを示していたとチャッダ氏は振り返った。その兆候の1つが、2月27日にオマーン外相が「最後の試み」とも言える形でワシントンを訪れたことだったという。
また、金融機関を顧客に持つアドバイザリー会社チャートフ・グループのCEOで元CIA職員のチャド・スウィート氏は、2月27早朝に米海軍の空母ジェラルド・フォードがイスラエルに到着したことも、攻撃が近いという明白なサインだったと指摘した。
さらに、米国が中東地域の一部大使館職員の退避を許可したとの報道も流れた。地政学アドバイザリー企業TDIのジェイ・トゥルースデールCEOは「それが最後の重要な『引き金』の1つだった」と述べた。同社はヘッジファンド、トレーダー、海運企業、製造業などの顧客に、政府が戦争計画に沿ってどのような行動を取りつつあるかを示す兆候を見極めるよう説明していた。基になったのは全て公開情報だ。「この引き金が作動すれば、24時間ないし72時間以内に軍事行動が起きる可能性が急上昇すると分かっていた」という。
2月27日に米国債市場で奇妙な値動きがあり、一部投資家がイラン戦勃発に賭けた取引を行ったことが読み取れる。この日はインフレ指標が予想以上に強かったにもかかわらず、投資家は通常とは逆に長期国債買いに動き、10年債利回りは4%を割り込んだ。こうした急激な逃避的買いは通常、マクロ的な非常事態か、もしくはそれが「間もなく起こる」との確信があるときに起きる。
ブティック系ブローカーディーラーであるミシュラー・ファイナンシャルのグローバル金利取引マネージングディレクター、トム・ディ・ガロマ氏によると、市場では元軍関係者の発信した情報が影響したのではないかと見方が浮上していた。
<地政学リスク分析の需要拡大>
投資家の需要拡大を受けて、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、ラザード、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行などはここ数年、自前の地政学アドバイザリー部門を立ち上げたり、軍事・国家安全保障分野の専門家を採用したりしてきた。
ドイツ銀は22年11月にキッシンジャー元米国務長官を採用。サンタンデールは昨年、英陸軍トップだったサンダース大将をアドバイザーとして起用した。
紛争が拡大する中、投資家は最新の情報、海運ルートに関する情報、原油価格の見通し、エネルギー関連産業への影響などを探し求めている。
22年に発足したラザードの地政学アドバイザリー部門を率いるテディ・ブンゼル氏は「この数日は24時間体制で、投資家やエネルギー関係者など幅広い顧客から非常に具体的な質問が寄せられている」と話した。「皆が知りたがっているのは、『これがどう終わるのか』ということだ」という。同部門には退役した海軍大将ウィリアム・マクレイブン氏ら元軍高官が複数在籍している。





