最新記事

サイエンス

「最新」脳科学のウソとホント

お手軽な脳トレやビタミン剤などのハウツーは多くが偽情報。2011年、ここまで分かった脳を伸ばすのに本当に必要なこと

2011年1月6日(木)15時08分
シャロン・ベグリー (サイエンス担当)

甘くない脳科学 賢くなれるゲームには限られているし脳トレの効果にも個人差があることを知るべき

 能のメカニズムが、筋肉のそれのせめて半分でも解明できていれば、みんなもっと賢く(そして幸せに)なれるはずなのだが......。

 筋肉を繰り返し使うと、化学的・電気的な一連の反応によって筋線維が強化されることは知られている。だから「たったの8秒で腹筋が見違えるように!」みたいな宣伝文句の嘘は簡単に見抜ける。

 脳神経についてはどうか。ちまたには「一発で頭が良くなる方法」なるものがあふれている。脳を鍛えるゲームや各種の瞑想法もある。ブルーベリーを食べろとかガムをかめとかの説もあり、友達付き合いを増やすと知能も創造力も向上するという素敵な仮説もある。そんなことで賢い節税が可能になり、アメフトの複雑なルールも理解できるようになるというのだ。

 実を言えば、21世紀の神経科学もいまだに「頭が良くなる」プロセスを解明できていない。なのに、すっかり解明できたかのような偽情報が氾濫している。試しにグーグルで「脳トレ」を検索してみればいい。もっと本格的に、生物医学系の専門論文データベースで「認知力向上法」を検索してみるのもいい。どちらであれ、ヒット数は莫大なものであるはずだ。

 しかし信頼できる情報は少ない。まじめな研究論文でも、その多くは人々の行動を観察し、比較した結果から一定の答えを推定しているにすぎない。簡単に言えば、被験者を2つのグループに分け、一方には特定の活動をさせる。その後、双方に同じテストを受けてもらい、正答率の変化を調べるわけだ。

 それでも、ある活動をしたグループの成績が向上したとしても、それが当該活動のおかげとは言い切れない。スポーツジムのロッカーをよく使う人は、まったく使わない人よりも概して健康だろう。ならばロッカーが健康増進のカギなのか。

 違う、と私たちが言えるのはそれなりに運動生理学のメカニズムを知っているからだ。しかし認知力向上の仕組みについては、ほとんど知識がない。だから偽情報に踊らされやすい。...本文続く

──ここから先は1月6日発売の『ニューズウィーク日本版』 2011年1月12日号をご覧ください。
<デジタル版のご購入はこちら
<iPad版、iPhone版のご購入はこちら
<定期購読のお申し込みはこちら
 または書店、駅売店にてお求めください。

他にも、中国のユダヤ教ビジネス書ブームについてリポートした
■「ユダヤ教の聖典はビジネス虎の巻?」など、読み応え満点。
<最新号の目次はこちら

[2011年1月12日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中