最新記事

朝鮮半島

北朝鮮を見捨てない中国の真の思惑

南北統一を阻止したい中国は、北朝鮮を「衛星国家」にして体制を存続させる道を選択した

2010年11月29日(月)18時08分
エーダン・フォスター・カーター(リーズ大学名誉上級研究員)

「血の友情」再び 5月に北京で会談した北朝鮮の金正日総書記(左)と中国の胡錦濤・国家主席 KCNA-Reuters

 そんなことあるか! のっけから乱暴な言葉で恐縮だが、これくらい強い表現を使わずにはいられない。北朝鮮情勢に関して評論家や政府関係者たちが相も変らぬ主張を垂れ流しているが、まったく同意できない。

 11月23日に北朝鮮軍が韓国の延坪島を砲撃したことを受けて、米国務省のP・J・クラウリー報道官はこう述べた。「第1に、北朝鮮の挑発行為により生み出された緊張を和らげ、第2に、北朝鮮に核放棄を促し続けるために、中国が影響力を行使することを願う」

 願うのは自由だが、中国がアメリカの期待に応じることはありえない。中国外務省は先頃、「(国際社会と)一致して行動する用意がある」と述べた。しかし中国政府の言葉を額面どおりに受け止めると、たいてい当てが外れる。

「唇と歯」が友情を再確認?

 最近、中国と北朝鮮の親密ぶりが目立っている。両国の間には、朝鮮戦争を共に戦った経験を通じて築かれた強固な「血の友情」があり、「唇と歯」のように親密な間柄だと言われてきた。ここにきて、そうした古いレトリックがまたしきりに聞こえ始めた。

 8月には、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が中国北東部を訪問。そこへ中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が北京から出向いて、会談を行った。金の後継者としてお披露目を間近に控えた3男の金正恩(キム・ジョンウン)も同行していた。このとき、中国は金正恩が北朝鮮の次期指導者になることを了承した。

 それから1カ月あまり経った10月10日、平壌で朝鮮労働党創建65周年を祝う軍事パレードが行われた。メディアは金正日や北朝鮮高官たちと共に演壇に立つ金正恩に注目したが、このとき金正日の隣に「金日成バッジ」を着けていない男性がいた。中国共産党の周永康(チョウ・ヨンカン)政治局常務委員だ。

 この翌週、北朝鮮の11の地方行政区画の党責任者が揃って中国を訪問。北京では、周がこの使節団を歓迎した。

 北朝鮮側が最も印象的な行動を取ったのは、10月26日。金正日と正恩は党と軍の幹部を引き連れて、平壌の東に位置する檜倉郡という土地を訪れた。ここは、朝鮮戦争に参戦した中国人民志願軍が司令部を置いていた場所。彼らはその戦死者の墓を参拝したのだ。毛沢東の長男・毛岸英もここに埋葬されている。

 よその国に感謝の気持ちを示すことなどほとんどない北朝鮮としては、極めて異例の行動と言っていい。金親子にとって、頼れる国はもはや中国だけなのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中