最新記事

中東

改憲OKでトルコがイスラム化する?

国民投票で決まった憲法改正は民主主義を強化するのか、それとも政教分離の国是を脅かすのか

2010年9月14日(火)17時25分
ニコル・ソベキ(イスタンブール)

民主国家へ 改憲支持派は国民投票の結果、トルコのEU加盟に弾みがついたと歓喜している(9月12日) Osman Orsal-Reuters

 イスタンブール随一の保守的な空気が漂うファティフ地区。降りしきる雨のなか、細い路地にある投票所から出てきた人々の顔は傘に隠れ、「憲法改正賛成」を訴える政府ポスターが風に揺れて剥がれそうになっていた。
 
 憲法改正についてトルコ国民が出した答えは「イエス」だった。9月12日に行われた国民投票では、賛成票が約58%。レジェップ・タイップ・エルドアン首相率いるイスラム系与党・公正発展党(AKP)にとっては大きな勝利だ。来年の総選挙に向けて基盤を固められただけでなく、トルコのEU(欧州連合)加盟にも弾みをつけた。

「投票箱から発せられたメッセージは、民主主義の発展へのイエス、自由へのイエス、司法の優位性へのイエス、そして国民の意思による統治へのイエスだ」と、選挙後に出演したテレビの生放送でエルドアンは語った。

世俗主義の「守護神」軍部の力を削ぐ

 確かに、26項目に及ぶ憲法改正案の多く(女性と子供、障害者の権利拡大や個人情報保護など)は、大半のトルコ人にとって受け入れやすいものだった。だが一方で、政教分離の国是を揺るがすような項目もあった。そのため、世俗主義者にとっては今回の選挙は、イスラム色を強めて国家のアイデンティティを脅かすAKPとの戦いだった。

「AKPが進めてきた多くの政策と同じく、奇妙な取り合わせだ。受け入れがたい中核と隠しきれない政治的利害関係の周りに、真っ当に聞こえる甘い誘惑を巻きつけてある」と、人気の政治ブログをもつジャーナリスト、イガル・シュリファは言う。

 改正項目のなかで世俗主義者がとりわけ懸念するのは、AKPの支配下にある大統領と議会が、高位の裁判官の人選に強く関与できるようになるという司法改革の部分だ。さらに、政教分離の原則を守るという名の下に過去50年間で4度、政権を失脚させてきた軍部の力を削ぐような項目もある。

 賛成派は、脆弱な民主主義を改善するには憲法改正が不可欠であり、EU加盟に向けたさらなる一歩となると主張する。「現憲法は個人ではなく国家を守るためのものだ。トルコの法律の大半は、いまだにこの考え方に根付いている」と、オランダ選出の元欧州議会議員ヨースト・ラゲンダイクは書いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中