最新記事

米メディア

コーラン焼却騒ぎを煽ったメディアの罪

無名の牧師の軽挙妄動を世界的大ニュースとして報じたことが、各国の暴動につながった

2010年9月14日(火)15時51分
ジョエル・シェクトマン

怒りの炎 イランの首都テヘランで「コーラン焼却集会」に抗議して米国旗を燃やす人々(9月13日) Caren Firouz-Reuters

 結局、テリー・ジョーンズ牧師は周りからの圧力、そしておそらくは自分自身の良心に屈した。しかしその決断はあまりにも遅すぎた。

 ジョーンズの「コーラン焼却集会」計画(後に撤回)を受けて、インド北部カシミール地方やアフガニスタン、イランなどで抗議デモが発生。デモは暴動に発展し、9月13日までに少なくとも16人が死亡した。

 暴動は同時多発テロからちょうど9年を迎えた9月11日の翌日に始まった。世界が宗教過激派との対立は避けねばならないと考えている、まさにその時に。狂信者が起こした9年前のテロが、それから10年近く続く2つの戦争を生み、何十万人もの命を奪っている。この恐怖──愚行と呼ぶ人も多いだろう──は、ごく少数の狂った原理主義者たちの激情から始まった。

 今回の流血騒動に火をつけたのは、米フロリダ州ゲーンズビルにある、信者50人ほどの小さなキリスト教会の牧師。ジョーンズは11日、NBCテレビの取材に対して、「今日も、そして今後も」コーランを燃やすことはないと語った。

 しかしジョーンズが期待していたであろうイスラム教徒の怒りの炎は、既に燃え上がっていた。こうして9・11テロから9年目の今年は、宗教対立に端を発した暴力で尊い命が無意味な犠牲を払わされた一連の騒動が際立つかたちになってしまった。

狂人がイスラムを侮辱するとき

 今回の騒動の責任はメディアにもある。取るに足らない牧師の軽挙妄動を逐一報じることが、どんな公益につながるというのか、報道機関は自分たちの役割について省みる必要があるだろう。ジョーンズが参列者もまばらな教会でコーランを焼こうしたことが世界に知れ渡ったのは、それがニュースとして世界へ発信されたからだ。大ニュースとして扱ったことで、メディアはその後の暴動の発生に手を貸したことになる。

 いま問うべき問題は、次に同様の事件が起きたとき、メディアがどんな対応を見せるかだろう。そう、またどこかの狂人が一瞬のスポットライトを浴びたいがために、イスラム教徒を侮辱したり他の人々を挑発する行動にでたときだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

円が対ドルで5円上昇、介入観測 神田財務官「ノーコ

ビジネス

神田財務官、為替介入観測に「いまはノーコメント」

ワールド

北朝鮮が米国批判、ウクライナへの長距離ミサイル供与

ワールド

北朝鮮、宇宙偵察能力強化任務「予定通り遂行」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中