最新記事

テロ

9・11当時よりアメリカは安全だ

同時多発テロから9年──アメリカを本当に弱体化させるのは、テロの脅威を誇大に叫ぶ右派のキャンペーンだ

2010年9月13日(月)17時46分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

悲劇の記憶 同時多発テロから9年を迎えた9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地で開催された追悼式典で David Handschuh-Pool-Reuters

 9・11テロ当時に比べて、アメリカは安全になったのか----。簡単に答えが出そうに思えるかもしれない。しかし最近、アメリカの世論は大きく割れている。01年の9・11テロ直後よりむしろ、話が複雑になっている感もある。本稿では、出来る限り公平を期して、この問いに答えてみたい。

 ひとことで言えば、01年よりアメリカは安全になった。90年代、国際テロ組織アルカイダはテロリスト訓練キャンプを運営し、2万人もの戦闘員を送り出した可能性がある。その活動が成功していたのは、世界のほとんどの国がアルカイダを国家安全保障上の深刻な脅威と見なさず、軽く見ていたためだ。

 9・11テロを境に、世界の国々の態度は大きく変わった。各国が打ち出したテロ対策が効果を上げ始めている。例えば旅客機のコックピットのドアを封鎖するようになって、旅客機のハイジャックは極めて実行しにくくなった。

 アメリカはアフガニスタンで軍事作戦を展開し、アルカイダを支援していた政権を倒し、テロリスト訓練キャンプを壊し、山岳地帯に逃げた戦闘員を追跡。ほかの国々と手を携えて、テロ組織の通信網と移動ルート、そしてなにより金の流れを断ち切ってきた。

 こうした措置に関して、ブッシュ前政権の対応は評価できる。その後の行動はともかく、01年と02年の時点でアメリカ国内でテロ対策を強化したこと、そしてアルカイダの掃討に乗り出したことは賢明な判断だったし、成果も上がった。その後、オバマ政権がパキスタンでの戦いを強化したことにより、アルカイダはますます弱体化した。

イスラム過激派の影響力は減退

 ウサマ・ビンラディン率いるアルカイダ「本体」は、戦闘員400人ほどに縮小。軍事・政治面で象徴的意味のあるアメリカ関係施設を標的に大規模テロを行うことは、もはやできない。

 9・11以降の国際テロは、アルカイダ系を自称する地域レベルの小規模なグループによって実行されるようになった。それに伴い、比較的狙いやすい場所が標的に選ばれる傾向が強まった。バリ島のナイトクラブ、カサブランカやイスタンブールのカフェ、アンマンのホテル、マドリードやロンドンの地下鉄などで起きたテロはその例だ。

 こうした新しいタイプのテロで犠牲になるのは、アメリカの兵士や外交官ではなく、普通の市民。そのため、地元の人々がイスラム過激派に反感を抱くようになった。

 世界の15億7000万人のイスラム教徒の何パーセントかを鼓舞し、とどまることなきジハード(聖戦)の波を生み出す可能性があることこそ、アルカイダの本当の脅威だった。しかし今や、イスラム世界で過激派に対する支持は急激に落ち込んでいる。

 選挙を実施しているイスラム諸国の約半数では、武装勢力となんらかの関わりのある政党が選挙で惨敗する傾向が表れている。世界で最もテロ問題が深刻な国であるパキスタンでさえ、例外でない。世界中のイスラム教指導者たちも近年、自爆攻撃やテロ、アルカイダを繰り返し非難している。

テロリストの思惑どおりの展開

 もちろん、アメリカが100%安全になったわけではない。そんな状況は、この先も永久に訪れない。自由な社会と新しいテクノロジーが結びつくところに、テロの危険は常について回る。

 もっと安全を高めることも可能だが、そのためには移動、集会・結社、通信の自由の制約をもっと受け入れなくてはならない。極端な話、北朝鮮のような社会にすればテロはまず起きない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中貿易摩擦再燃で新たな下振れリスク、利下げ急務に

ビジネス

シカゴ連銀発表の米小売売上高、9月は+0.5% 前

ビジネス

米BofAの7─9月期は増益、投資銀行業務好調で予

ワールド

米韓通商協議に「有意義な進展」、APEC首脳会議前
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中