最新記事

タイ

「タクシン元首相はもちろん帰国する」

デモ終結から1カ月。海外逃亡を続ける元首相の代理人アムステルダム弁護士が語る「黄色vs赤色」和解の可能性と帰国Xデー

2010年6月23日(水)15時38分

アイ・シャル・リターン モンテネグロの首都ポドゴリツァで取材に応じるタクシン(4月26日) Stevo Vasiljevic-Reuters

 タイ騒乱が終結して1カ月が過ぎた。タクシン・シナワット元首相の逮捕状を発付するなど、アピシット政権の元首相と支持派への攻撃は続き、海外逃亡中のタクシン元首相も歩み寄る姿勢をまったく見せていない。

 カナダ人国際弁護士ロバート・アムステルダムは、今年5月からタクシン元首相の代理人として世界各国でロビー活動を行っている。アムステルダムは、ロシア野党勢力を支援してプーチン大統領(現首相)の怒りを買い、詐欺罪などで投獄された富豪ミハイル・ホドルコフスキーの弁護人でもある。
 
 来日中のアムステルダムに、タクシン元首相の帰国や現政権との和解の可能性を本誌・長岡義博が聞いた。

 
dw_100623c.jpg----タクシン氏は今どこで何をしているのか。

 私の電話の先にいる、としか言えない。安全上の理由がある。タイ政府は非常にいら立ち、彼をテロリスト呼ばわりしている。

----逮捕状が出ているが、帰国するつもりはあるのか。
 
 もちろんそのつもりだ。ただ、いつとは言えない。タイ政治は流動的なので、そのチャンスはある。

----人権派弁護士と言われるあなたがなぜ、在任時に汚職や麻薬抗争に関係した非合法殺人に関与したとされるタクシン氏の弁護を引き受けたのか。

 タクシン氏はこれまで国内で4回(汚職などについて)調査されたが潔白だった。彼ほど国民のために働いたリーダーはいない。私は自分の口から自分が人権派だと言ったことはない。ビジネス案件も引き受けている。

----赤シャツ隊に指示はしていないとタクシン氏は主張しているが。

 助言を求められればアドバイスする立場にはあるかもしれないが、指示はしていない。

----あなたは赤シャツ隊の武器使用を否定していた。根拠は?

 武器をもった人は少しはいたかもしれない。私も当時現場で1人目撃した。だがデモ隊の大半は中高年の非暴力的な集団だった。

----タクシン氏が赤シャツ隊に資金を渡したこともあなたは否定している。

 彼に尋問したわけではないからはっきりしたことは言えない。だがカネを実際に受け取った赤シャツ隊の人がいたとしても、それは政府のでっち上げだと思う。

----あなたは約1カ月前の中東の衛星テレビ局アルジャジーラのインタビューで、タクシン氏の資金提供について最初「まったくない」と答え、のちに「知らない」と言葉を変えた。

 インタビューを受けたのは大勢の人が殺されているさなか。それなのにアルジャジーラはカネのことばかりしつこく聞いてきた。どうでもいい、という感じで答えてしまった。

----今回の騒乱の責任の一端はタクシン氏にもあるのでは。

 タクシン氏は06年のクーデターで不法に放逐された権力乱用の被害者。彼に責任はない。

----タクシン氏の在任当時、あまりに過酷に都市のエリート層の権力を制限したことが、今日の対立を招いたのではないか。

 彼は民主選挙で選ばれた、北部の人たちのことを考える初めての首相。非難されるべきとは思わない。

----国民の80%を占めるタクシン支持勢力と、残り20%のバンコクのエリート層との間に何らかの妥協は必要ではないか。

 正当な選挙が行われ、和解が実現すれば対立は終わる。ところが現在の政府は事件の正当な調査も行わず和解にも無関心。この政府が続く限り対立は終わらない。

----タクシン氏は国軍の政治への干渉を今後どう排除するつもりなのか。

 どうやるかは言えない。ただ軍隊とは、自らの重要性を国民に認識させるため、常に何らかの任務を必要とする組織だ。今後例えばカンボジアとの国境紛争をつくり出すこともありえる。

----タクシン氏は王制を改革するつもりがあるのか。

 王制に関する質問には答えられない。タイには不敬罪があり、意見の異なる者を小さな罪で投獄することができるからだ。

----日本政府に何を求めるのか。

 国際的な調査団をつくるよう要請しに来た。私は日本を重視している。日本はタイにとって重要な国で、発言力もあるからだ。

----日本ではどの政治家に会う?

 1人名前を挙げると、鈴木宗男衆院外務委員長に会う予定だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

プーチン氏、5月に訪中 習氏と会談か 5期目大統領

ワールド

仏大統領、欧州防衛の強化求める 「滅亡のリスク」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中