最新記事

アフリカ

スーダン戦犯におもねる国連の機能不全

2010年6月16日(水)18時26分
ケイティ・ポール

 一方バシルにとっては、これが二者択一の問題として捉えられるのは大歓迎だ。「国連はリスクを伴うICCの要求を受け入れるか、ダルフール和平協議や南北包括和平合意の履行を支持していくかのどちらかだ」と、スーダンのモハマド国連大使は語っている。

手下を狙うのが精一杯

 バシルが、来年1月の住民投票で南部が独立を選択したらその結果を尊重すると約束していることも国連の姿勢に影響を与えている。関係者はバシルが心変わりしないよう、彼を刺激するような動きを警戒している。なかでも一番憂慮しているのが、バシルの逮捕だ。

 そこで、モレノ・オカンポはバシルから遠いところから攻略する戦術に出た。ICCは5月26日、容疑者逮捕への協力を拒むスーダン政府を正式に安保理に訴えた。ただし「容疑者」とは、バシルのことではなく、同じくダルフール紛争の戦争犯罪の罪に問われるスーダンの元閣僚アーメド・ハルーンと、政府系民兵組織ジャンジャウィードの元リーダー、アリ・クシャイブだ。

 ICCは前例のない行動にでたわけだが、これは単なる形式的なものにすぎないとも言える。とはいえ、焦点をバシルから外したことは、モレノ・オカンポが現実的になった証拠だ。彼はスーダン政府に対しても安保理に対しても多くを望み過ぎていたことを認識し、手が届く「獲物」へと照準を絞った。より実現しやすい要求を関係者に突きつけたのだ。

 ダルフール紛争がまた激化したとしても、来年の住民投票の前に安保理が政治上の計算を度外視するとは考えにくい。実際、安保理議長は14日、モレノ・オカンポの要求に対し「具体的な行動」を取る計画はないとした。

 それでも住民投票が終わった後ならば、安保理もハルーンとクシャイブの逮捕をスーダン政府に求める可能性がある。バシルの逮捕より要求しやすい2人だし、バシルも自らの保身のために部下を差し出す取引に応じるかもしれない。

 これは、バシルが住民投票を予定どおりに行い、その結果を尊重するという信頼に基づく安保理の戦略的な賭けだ。賢明な戦略とも呼べるが、見方によっては譲歩とも呼べるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB理事ら、インフレ警戒 利上げは慎重に見極め

ワールド

台湾輸出受注、2月23.8%増 予想下回る

ビジネス

ユニリーバの食品事業、米マコーミックが買収提案

ビジネス

アマゾンが再びスマホ開発、「Transformer
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 5
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 9
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 10
    「嘘でしょ!」空港で「まさかの持ち物」を武器と勘…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中