最新記事

米中関係

中国がアメリカに背を向ける理由

2010年3月18日(木)12時04分
メリンダ・リウ(北京支局長)

 問題は、中国の振る舞いが国外でいかに反発を買っているかを中国政府が見落としている可能性があることだ。確かに、世界の国々は景気後退からいち早く脱却した中国に嫉妬している面もある(政府発表では、09年第4四半期の経済成長率は10.7%)。とはいえ経済力が高まれば、それだけ国際社会への貢献が求められるのは当然だ。

 中国は主要国のなかで唯一、核開発問題でイランに新たな制裁を科すことにいまだに抵抗し続けているようにみえる。09年12月にコペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)でも中国代表は非協力的な態度に終始し、外交儀礼に反してオバマを嘲笑した。

 中国政府は人民元の切り上げを求める声も突っぱね続けている。欧米で失業が深刻な問題となるなかで、この件が政治的な火種になることは避けられないだろう。

 今ほど、中国政府と米政府が互いに理解を深める必要性が高い時期はない。そんな時期に両国の間の溝が広がっている責任の一端はアメリカにもある。80〜90年代の中国のアメリカ研究ブームを牽引した資金源は、主に米政府の研究助成金や奨学金だった。

 当時のアメリカは中国人に民主主義の力を見せつけたいと思っていた。「上から見下ろすような態度のアメリカ人も多かった」と、北京大学国際関係学院の王は振り返る。「『さあアメリカに来て、いろいろ学んで帰りなさい』と言わんばかりだった」

 しかし「アメリカへの憧れがすっかり薄れて、逆に誰も彼もが中国に興味を抱き始めた」と、王は言う。王いわく、最近は「選挙と選挙の間のオクラホマ州の動向」より、民族問題を抱える新疆ウイグル自治区情勢を研究テーマに選ぶほうが研究資金を獲得しやすい。

 こうした状況が研究の視野を狭めかねないと心配する専門家も多い。研究を続けるために、国際経済や気候変動、エネルギーなど中国の利害に直接関係するテーマを選ぶ研究者が少なくないのだ。「2国間関係に直接関わりがある問題を別にすれば、アメリカ社会を動かす重要な力学について理解が弱まっている恐れがある」と、王は指摘する。

虚勢を張るルーキー?

 08年の米大統領選のときのこと。王はオバマの当選を予想していたが、中国の有力知識人の一部は納得しなかった。「『そんなばかな! 黒人が当選するわけがない』と言った人もいた」

 このような基本認識はオバマが当選した後も一部の有力な知識人の間に残り、オバマが暗殺されるだろうという見方が広がる始末だった。この程度の認識では、他の国に比べてオバマに対する接し方が冷ややかなのもうなずける。

 中国が独善的な態度を取り始めているのは、ある意味でこの国の本能なのかもしれない。中国が自国を世界の中心と考えるのは明の時代以来だが、そのときも中国は急速に内向きになった。

 もっともアメリカを見限るのは時期尚早だと、中国のアメリカ研究のベテランたちは思っている。「もしアメリカが幸運に恵まれて、一方で中国がドジを踏めば、アメリカが(世界の頂点に)とどまる可能性もある」と清華大学の外交政策専門家、閻学通(イェン・シュエトン)は言う。

 現在の中国を、若くしてNBA(全米プロバスケットボール協会)に移籍したときの中国人バスケットボール選手、姚明(ヤオ・ミン)になぞらえるのは、清華大学中米関係研究センターの孫哲(スン・チョー)所長だ。当時の姚は「体は十分に成長していたが、NBA入りして間がなく、プレーし始めたばかり」だった。

 孫の言うように、最近の中国政府の攻撃的な態度が単なるルーキーの虚勢であればいいのだが。

[2010年2月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SMBC日興、7─9月期純利益は6割増 政策株売却

ビジネス

仏ソジェン、第3四半期は予想上回る増益 コスト削減

ビジネス

金融政策運営、今後も政府と十分な意思疎通図る=植田

ビジネス

アステラス、通期予想を上方修正 がん治療剤の好調や
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中