最新記事

ドイツ

戦争を語れる「普通の国」へ

2009年12月3日(木)14時57分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

 国会で軍の役割の拡大をめぐる議論になるたびに、ドイツ軍の派遣は、アフガニスタンでアメリカ、イギリス、カナダ、ポーランドの部隊が戦っている戦争には関係ないという説明が延々と続く。メルケルとフランツ・ヨゼフ・ユング国防相は、「民間と軍を統合した治安維持」というドイツの戦略は賢明だと繰り返してきた。

 こうした政治的な曲解を物語る最もばかげた例は、ドイツ軍のトルネード戦闘機6機をアフガニスタンに派遣したことだ。ブリュッセルのNATO高官によると、軍事的にも戦略的にも明確な目的はなく、ドイツのさらなる貢献を要求する多国籍軍をなだめるためだけの行為だという。

 議会は偵察飛行だけを認め、収集した情報を将来の空爆に使わないことを条件とした。クンドゥズの事件でドイツの地上軍は、近くにドイツ軍機が待機していたにもかかわらず、米軍に空爆を要請しなければならなかった。

 開かれた議論を避けるため、戦争をめぐる情報はねじ曲げられている。例えば、05年に爆撃を受けて死亡したドイツ兵2人を軍は「事故死」と報告。特殊作戦部隊の行動についても詳しい情報は明らかにされていない。

 しかしクンドゥズの空爆が流れを変えようとしている。ユング国防相は空爆そのものについてより、情報隠しを非難されている。

戦闘を渋りNATO軍のお荷物に

 米英軍やNATO軍は、ドイツが戦闘への参加を渋り、戦略地政学上の役割を果たしていないことに憤慨している。「NATO軍が機能しておらず、その大きな原因はドイツだという空気が広がっている」と、ロンドンのシンクタンク欧州改革研究所のチャールズ・グラント所長は言う。

 ドイツ治安当局のある高官は、総選挙が終われば米政府とNATOから、「戦える」部隊の増派を求められるだろうと語る。NATO内には、ドイツを抜きにして(イタリアなど基本的に戦闘に参加しない国々も外して)、軍事的リスクを引き受ける国だけで新しい枠組みを築けないかという議論がある。引いては欧米の治安に関するドイツの発言力を減じようというのだ。

 渋々ながら要求に応じる姿勢は見せているが、ドイツ軍の装備不足は深刻だ。国防費はGDP(国内総生産)の1・1%。フランスは2・0%、イギリスは2・3%、アメリカは5%(イラクとアフガニスタンの軍事費を含む)だ。

 軍の規模は25万人とフランスに続きヨーロッパで2番目に大きいが、国外に展開しているのは平和維持部隊を含めて計7500人。今のドイツには、これがほぼ限界だ。国外の戦闘に対応できる兵士はごく一部で、大多数は徴集兵で9カ月しか従軍しないため基礎訓練もおぼつかない。

 将官200人のうち実戦かそれに近い経験があるのは一握りだ。近代的なヘリコプターや無人航空機、21世紀の戦闘で通用する通信装備の調達は遅々として進まない。

 4200人のアフガニスタン駐留軍全体でヘリコプターは8機しかなく、常に数機が使用できない状態だ。そのため補給も援軍もおぼつかず、兵士の大半は日が暮れると基地に帰還する。

 実際、ドイツのアフガニスタン政策はいつ破綻してもおかしくない状況をつくってきた。足かせをはめられた軍はますます危険にさらされ、戦争とドイツの国際責任をめぐる国内の議論は不誠実で、有権者は自分たちの国が外国で戦っている理由が分からない。

 そして総選挙が目前に迫ったこの時期、その矛盾が一気に噴出した。問題は選挙後にドイツの指導者たちがどう対応するかだ。「戦争」を禁句にしたまま議論を封じるのか。それともつらい選択をして、有権者の支持を得られないときもあるだろうが、ドイツを「普通の国」に戻すのか。

[2009年9月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金融大手、利下げ予想を後ずれ JPモルガンは27

ワールド

米NEC委員長、パウエル氏捜査に距離 FRBと司法

ワールド

トランプ氏、米ブラックロックCIOと15日面接 F

ワールド

イラン外相、反政府デモ「完全に掌握」と表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救った...実際の写真を公開、「親の直感を信じて」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    筋力はなぜパワーを必要としないのか?...動きを変え…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中