最新記事

イスラエル右旋回のシナリオ

2009年6月15日(月)15時22分

■「わが家イスラエル」党首 アビグドル・リーベルマン

 2月10日のイスラエル総選挙で注目を集めたのが、アビグドル・リーベルマン率いる極右政党「わが家イスラエル」の躍進だ。

 イスラエル国内のアラブ系住民がガザ進攻に反政府デモで応じる一方で、リーベルマンの支持率は上昇した。支持者の心を引きつけたのは「すべてのイスラエル人が国家に対して忠誠を誓うべきだ」というリーベルマンの提案だった。これは明らかにアラブ系イスラエル人を念頭に置いた提案だ。

 先週、外国メディアとの初のインタビューに臨んだリーベルマンに話を聞いた。
           *

──第3次中東戦争以前からのイスラエル領であるワディアラ地区のアラブ人をパレスチナ自治区に移住させて、パレスチナ自治区内のイスラエル人入植地をイスラエルに併合すべきだとあなたは提案している。

 わが党はテロの支持者とテロと戦う人を分けて考える。戦争(ガザ進攻)の間ですら、イスラエル国内にハマスを大っぴらに支持する人々がいたことは、われわれには受け入れがたい。

──それはつまりアラブ系住民のことか。

 もちろん。ただし残念ながらユダヤ人にもハマス支持者はいる。

──ハマス支持者はイスラエル国民として認められないと?

 まず第一に(ハマスを支持する)政党と指導者を非合法化すべきだ。次にすべてのイスラエル人に兵役など国民としての義務を課す(アラブ系は兵役を免除されている)。

 われわれの提案はすべて欧米にならったものだ。忠誠の誓いはアメリカで行われているのとそっくり同じやり方を提案したのに、イスラエルでは人種差別主義者だとかファシスト呼ばわりされる。

──アメリカでは忠誠の誓いは義務ではない。誓わなくても国から追い出されることはない。

 その点にも賛成だ。われわれも国外追放など提案していない。ただし国家は国民に対し、真の意味で責任を担うよう求めなければならない。国歌に反対を唱える大臣がいるなんてどうかしている。

 パレスチナ人との関係も問題だ。紛争がここまで長引いている理由は(イスラエルによる)占領や入植だとよく言われるが、それはまちがった認識だと思う。

(第3次中東戦争が起きた)67年以前も(イスラエル建国の)48年以前も状況は同じだった。ユダヤ人とアラブ人の間には常に摩擦が存在した。

──あなたはリブニとネタニヤフの両者と会談した。ネタニヤフのほうが優れた指導者だと考えた理由は何か。

 われわれは、リクードとカディマとわが家イスラエルの3大政党による政権樹立が(最も)望ましいと考えた。経済からイラン問題まであらゆる問題に対応できる政権になるはずだ。

──大連立が頓挫したのはなぜか。リブニがネタニヤフに2国家共存案に同意するよう求めたからか。

 2国家共存案が問題になったわけではない。ネタニヤフは(パレスチナ問題で)なんらかの解決案が必要なことは理解している。問題になったのは(首相職をカディマとリクードのそれぞれの党首による)交代制にするかどうかだ。

──どの大臣ポストを望むか。

 国防、財務、外務のどれでもやれると思うが、個人的には外務大臣がいい。

──ネタニヤフ政権の外相になったら、和平交渉は継続するのか。

 もちろんだ。ただし正しい方向に軌道修正する。最終合意から始めるのではなく、段階的に進める。エルサレムの帰属や入植地からの撤退といった問題から交渉を始めることはできない。安全保障と経済から着手しなければ。パレスチナ自治政府を強化する必要もある。

──シリアとの和平のためにゴラン高原を手放す気はあるか。

 ゴラン高原を手放さなければならない理由がわからない。シリア政府は世界のテロの中核的存在だ。イスラム聖戦やハマスといった組織の本部は(首都の)ダマスカスにある。一方、イスラム急進派組織ヒズボラのこともシリア政府は支援している。

──アメリカにはあなたのことを人種差別主義者だとみる人もいる。

(根底には)偽善という問題がある。イスラエルの人権侵害を非難するアメリカ人の発言を聞くたび、私は米議会でサウジアラビアの人権についての公聴会が開かれるのを待ち望んでいる(と答えてきた)。イスラエルの人権侵害への非難に耳を傾けるのはそれからだ。 

[2009年3月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、レアアース採掘計画と中朝国境の物流施設

ビジネス

英BP、第3四半期の利益が予想を上回る 潤滑油部門

ビジネス

中国人民銀、公開市場で国債買い入れ再開 昨年12月

ワールド

米朝首脳会談、来年3月以降行われる可能性 韓国情報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中