イスラエル右旋回のシナリオ
■「わが家イスラエル」党首 アビグドル・リーベルマン
2月10日のイスラエル総選挙で注目を集めたのが、アビグドル・リーベルマン率いる極右政党「わが家イスラエル」の躍進だ。
イスラエル国内のアラブ系住民がガザ進攻に反政府デモで応じる一方で、リーベルマンの支持率は上昇した。支持者の心を引きつけたのは「すべてのイスラエル人が国家に対して忠誠を誓うべきだ」というリーベルマンの提案だった。これは明らかにアラブ系イスラエル人を念頭に置いた提案だ。
先週、外国メディアとの初のインタビューに臨んだリーベルマンに話を聞いた。
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──第3次中東戦争以前からのイスラエル領であるワディアラ地区のアラブ人をパレスチナ自治区に移住させて、パレスチナ自治区内のイスラエル人入植地をイスラエルに併合すべきだとあなたは提案している。
わが党はテロの支持者とテロと戦う人を分けて考える。戦争(ガザ進攻)の間ですら、イスラエル国内にハマスを大っぴらに支持する人々がいたことは、われわれには受け入れがたい。
──それはつまりアラブ系住民のことか。
もちろん。ただし残念ながらユダヤ人にもハマス支持者はいる。
──ハマス支持者はイスラエル国民として認められないと?
まず第一に(ハマスを支持する)政党と指導者を非合法化すべきだ。次にすべてのイスラエル人に兵役など国民としての義務を課す(アラブ系は兵役を免除されている)。
われわれの提案はすべて欧米にならったものだ。忠誠の誓いはアメリカで行われているのとそっくり同じやり方を提案したのに、イスラエルでは人種差別主義者だとかファシスト呼ばわりされる。
──アメリカでは忠誠の誓いは義務ではない。誓わなくても国から追い出されることはない。
その点にも賛成だ。われわれも国外追放など提案していない。ただし国家は国民に対し、真の意味で責任を担うよう求めなければならない。国歌に反対を唱える大臣がいるなんてどうかしている。
パレスチナ人との関係も問題だ。紛争がここまで長引いている理由は(イスラエルによる)占領や入植だとよく言われるが、それはまちがった認識だと思う。
(第3次中東戦争が起きた)67年以前も(イスラエル建国の)48年以前も状況は同じだった。ユダヤ人とアラブ人の間には常に摩擦が存在した。
──あなたはリブニとネタニヤフの両者と会談した。ネタニヤフのほうが優れた指導者だと考えた理由は何か。
われわれは、リクードとカディマとわが家イスラエルの3大政党による政権樹立が(最も)望ましいと考えた。経済からイラン問題まであらゆる問題に対応できる政権になるはずだ。
──大連立が頓挫したのはなぜか。リブニがネタニヤフに2国家共存案に同意するよう求めたからか。
2国家共存案が問題になったわけではない。ネタニヤフは(パレスチナ問題で)なんらかの解決案が必要なことは理解している。問題になったのは(首相職をカディマとリクードのそれぞれの党首による)交代制にするかどうかだ。
──どの大臣ポストを望むか。
国防、財務、外務のどれでもやれると思うが、個人的には外務大臣がいい。
──ネタニヤフ政権の外相になったら、和平交渉は継続するのか。
もちろんだ。ただし正しい方向に軌道修正する。最終合意から始めるのではなく、段階的に進める。エルサレムの帰属や入植地からの撤退といった問題から交渉を始めることはできない。安全保障と経済から着手しなければ。パレスチナ自治政府を強化する必要もある。
──シリアとの和平のためにゴラン高原を手放す気はあるか。
ゴラン高原を手放さなければならない理由がわからない。シリア政府は世界のテロの中核的存在だ。イスラム聖戦やハマスといった組織の本部は(首都の)ダマスカスにある。一方、イスラム急進派組織ヒズボラのこともシリア政府は支援している。
──アメリカにはあなたのことを人種差別主義者だとみる人もいる。
(根底には)偽善という問題がある。イスラエルの人権侵害を非難するアメリカ人の発言を聞くたび、私は米議会でサウジアラビアの人権についての公聴会が開かれるのを待ち望んでいる(と答えてきた)。イスラエルの人権侵害への非難に耳を傾けるのはそれからだ。
[2009年3月11日号掲載]