最新記事

中東

過激派叩きが和平を殺す

パレスチナ自治政府とハマスの武力衝突が激化すれば、オバマの努力も水の泡に

2009年6月3日(水)17時56分
マーク・リンチ(米ジョージ・ワシントン大学准教授〔政治学〕)

不透明な未来  祈りを捧げるパレスチナ人建設労働者(5月27日、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地建設現場で) Ammar Awad-Reuters

 大方の予想に反して、アメリカのオバマ政権はイスラエルのベンヤミン・ネヤニヤフ首相に対し、しっかりと強い姿勢で臨んできたと評価していい。

 実際、ユダヤ人のパレスチナへの入植を停止すべきというバラク・オバマ大統領の言葉が本気なのだと気づいて、イスラエル政府はショックを隠せずにいる。オバマ政権は事前に言われていたほど弱腰でもなければ、甘くもないし、ブッシュ前政権のやり方とははっきり一線を画している。

 ヒラリー・クリントン国務長官やジョージ・ミッチェル中東特使をはじめとするオバマ政権関係者はことあるごとに、ユダヤ人入植問題の重大性を強調している(私が思うに、アメリカの高官たちは申し合わせてそういう発言をしているのだろう)。イスラエル=パレスチナ問題が解決すればアメリカの安全が強化されると、デービッド・ペトレアス米中央軍指令官もイギリスの有力アラビア語紙アルハヤトのインタビューで述べている。

 こうした米高官の発言がアラブのメディアで大きく取り上げられたおかげで、6月3日にサウジアラビア、4日にエジプトを訪れるオバマ大統領は中東和平推進に弾みを付けやすくなった。大統領の言葉はイスラエル人とアラブ人の双方に対して信憑性を持つし、4日にカイロで行うスピーチはアラブ人に好意的に受けとられるだろう。

遠のいた「統一政府」樹立

 しかし、本質的な問題は解決していない。今の段階でユダヤ人のパレスチナ入植を停止したところで、いわば馬が納屋を飛び出して国中に散っていった後で納屋の扉を閉ざすのと変わらない。

 それに、イスラエルにネタニヤフ政権が続く限り、問題解決に必要な措置を取るとは考えづらい。一方のパレスチナ側も、イスラム過激派組織ハマス(パレスチナ自治区のガザ地区を実効支配)と穏健派組織ファタハ主導のパレスチナ自治政府(ヨルダン川西岸地区を支配)の対立が解消する見込みは当分ない。

 いま私が一番気掛かりなのは、ここに来てイスラエル政府とパレスチナ自治政府がそれぞれハマスへの攻勢を一気に強め始めたことだ。こうした行動は情勢を緊迫させ、ハマスの武力報復を招く可能性が高い。

 この10日ほど、イスラエル空軍はハマス支配下のガザへの空爆を強化。5月28日には、イスラエル軍がヨルダン川西岸でハマスの幹部アブド・アル・マジド・ダウディンを殺害した。

 31日には、ヨルダン川西岸のカルキリヤでパレスチナ自治政府の治安部隊がハマスのメンバーを拘束しようとして銃撃戦に発展。治安部隊3人、ハマス2人、一般市民1人の合計6人が死亡した。ハマスはこの件で自治政府を激しく非難している。「統一政府」樹立に向けたファタハとハマスの交渉は決裂が避けられないだろう。

ハマス攻撃の真の狙いとは?

 この状況には、2通りの解釈が可能だ。1つは、イスラエルやパレスチナ自治政府がハマスの報復攻撃を引き出そうとしているという見方。そうやって危機を煽ることにより、和平推進を求める内外の圧力を弱めるのが狙いなのかもしれない。もしそうだとすれば、あまりに悲しい。ハマスには挑発に乗らないでほしい。

 もう1つの解釈は、パレスチナ自治政府がヨルダン川西岸の治安を維持する意思と能力をアメリカとイスラエルの政府にアピールしようとしているという見方だ。

 パレスチナ自治政府がそういう方針を推し進めるとすれば誤った政策と言わざるを得ないが、米政府が中東和平政策で「西岸地区先行=パレスチナ自治政府限定」の姿勢を実質的に取っている以上、当然の反応という面もある(ここでは立ち入って論じないが、この米政府の姿勢も間違っている)。

 パレスチナの識者は政治的立場の違いを越えて、武力対立の激化に一斉に懸念を示している。私も同意見だ。パレスチナの内紛がエスカレートすれば、オバマ大統領の中東和平の取り組みが土台から崩壊しかねない。

Reprinted with permission from Marc Lynch's blog, 3/6/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加州知事を「敗者」と批判 英とエネ協定

ワールド

ウ大統領、ロの大規模攻撃準備を警告 ジュネーブ和平

ワールド

米長官、ハンガリーとの関係「黄金時代」 オルバン氏

ワールド

メキシコとカナダ、鉱物資源・インフラ巡り共同行動計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 2
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 3
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中