最新記事

セキュリティー

ネット監視、本当の悪夢

2013年8月5日(月)14時04分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

 NSAやその他の情報機関がセキュリティー手続きを強化すればいいだけのことではないか、と思うかもしれない。実際、NSAなどはそういう対策を実施すると約束している。

 例えば、NSAのキース・アレグザンダー長官は、セキュリティー強化の一環として「2人ルール」を導入する意向だという。機密性の高い情報にアクセスするためには、ほかの少なくとも1人のスタッフの了承を得るものとするというのだ。

 理にかなった対策ではあるが、情報への不正アクセスを完全に排除できる保証はない。NSAでは、約1000人のシステム管理者が働いている。この人たちがスノーデンのようなずさんな身元調査で採用されているとすれば、組織の内部にハッカーコンビが入り込んでいる可能性も考えられる。

 スタッフの身元調査をあらためて実施し、ネット上での書き込みを調べるなどして危険な兆候の有無をチェックすることは可能だ。しかし、この方法であぶり出せるのはホワイトハットだけ。ブラックハットは、自分の思想信条を正直にネット上に書き込んだりはしない。

 私のことを過度な心配性だと思う人もいるだろう。確かに、スノーデンが裁判書類や監視システムの概要を記した文書を入手していたことは明らかだが、個別の通信情報にアクセスしていたかは分かっていない。

最悪の可能性が現実に?

 政府の監視プログラムに協力していた大手ネット企業によれば、政府が個々の顧客の通信情報を入手するためには個別の法的手続きを踏む必要があるという。そうだとすれば、その気になれば連邦判事や大統領の通信記録を入手することも可能だったというスノーデンの主張は信憑性を欠く。

 しかし、心配し過ぎて悪いことはない。こうした問題では、過剰なまでに警戒することこそ、最も合理的な態度に思える。

 ネット時代に個人の私的な情報を他人に知られたくなければ、自分でコントロールできないデータベースに個人情報が記録されることを一切避けるしかない。

 プライバシー保護の徹底したサービスを利用する場合であっても、私的なデータにネット上でアクセスし、検索し、共有することが可能な状態にするのであれば、最悪の事態を覚悟するべきだ。地球上のすべての人がそのデータにアクセスし、検索し、共有できる状態になる危険と隣り合わせだからだ。

 NSAの監視システムの問題は、私たちの個人情報がそういう危険な状態に置かれてしまっていることにある。NSAは、収集した個人情報を乱用したり、漏洩したりしないと約束している。しかし、情報価値の高さを考えると、それを手に入れたい勢力は多い。そして、1回でもハッキングが行われれば、データは複製されて、たちまち世界中に拡散されてしまう。

 政府が集めた個人の通信記録にアクセスできるのは、スノーデンのような「ホワイトハット」ばかりではない。その人物がデータをオンライン上に公開する可能性もある。成り済ましのために他人の個人情報を欲しがる人物に情報を売ったり、本人を脅迫したりするかもしれない。政治家や経済界の要人、裁判官、航空機の安全管理を担当する政府機関の職員を脅して、言うことを聞かせようとするかもしれない。

 過剰反応? そうかもしれない。しかし、30歳になったばかりの若者が政府の重要な機密データを盗み出し、今はプーチン政権のロシアに身を隠しているという現実を前に、心配するなというほうが無理がある。

[2013年7月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ウ和平交渉で立場見直し示唆 トランプ氏

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中