最新記事

セキュリティー

ネット監視、本当の悪夢

米政府の通信情報収集問題で怖いのは、データがハッキングされて悪用される可能性だ

2013年8月5日(月)14時04分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

どこへ? モスクワ近郊の空港で旅行者にスノーデンの写真を見せて話を聞く記者も(6月23日) Sergei Karpukhin-Reuters

 アメリカ政府によるネット監視を暴露した元CIA職員のエドワード・スノーデンは、今どこにいるのか。彼は、米国家安全保障局(NSA)のコンピューターからダウンロードしたデータを誰に渡したのか。そのデータを受け取った勢力は、それをどうするつもりなのか。

 これらの問いの答えは、現時点で分かっていないし、結局は分からずじまいかもしれない。しかしそれ以外の点について、これまでに明らかになってきた情報は極めて不吉なものだ。

 スノーデンは5月に米政府による通信情報収集を暴露した後、香港を経てモスクワ入りするまでに、ダウンロードしたデータを大量に複製し、多くの人たちに配布したことが分かっている。英ガーディアン紙のグレン・グリーンワルド記者によれば、そのデータは暗号化されているが、スノーデンは「自分にもしものことがあった場合」その人たちが全データを閲覧できるように手を打っているという。

 この事件は、NSAの秘密監視プログラムに重大な不安を投げ掛けるものと言わざるを得ない。次第に分かってきた情報によれば、スノーデンは単なる暴走した若者というわけではなさそうだ。長期間かけてきめ細かい準備を行い、入念な計画を立てていた形跡がある。

 モスクワからキューバのハバナに向かおうとしていると世界中を欺いたことなど、スノーデンの取ってきた行動はことごとく、狡猾な工作員の振る舞いのように見える。不満分子のIT技術者のやることとは思えない。

 この点は極めて憂慮すべき材料だ。明らかになっている情報から判断する限り、NSAは今回のような計画的な侵入を阻止できるだけの充実した体制を備えていない。スタッフによるデータの不正入手を防ぐためにセキュリティー対策を強化することは可能だろうが、組織的な犯行を完全にはねのけることは難しいだろう。

 せめてもの救いは、スノーデンが高潔な目的の下で一連の行動を取ったと主張していることだ。米政府が世界規模で徹底した監視体制を築いていることを暴露し、民主主義の在り方に関する議論のきっかけをつくりたかったと、本人は述べている。

穴だらけのセキュリティー

 この主張を疑う理由はない。膨大なオンライン投稿などを読む限り、スノーデンは本気で正義のために行動したようだ。

 スノーデンは、「ホワイトハット」──つまり正義のハッカーだったのだろう。しかし、もし彼が悪意を持った「ブラックハット」だったとしたら? NSAのデータが盗み出されて、政治家などの要人が弱みを握られて脅されたり、アメリカの機密が外国政府やテロ勢力に漏洩されたりしても不思議でない。

 スノーデンは比較的簡単に、NSAの機密情報を扱う現場に入り込むことができたようだ。CIAの末端職員となったのを皮切りに、NSAやその契約企業へと移籍するたびに着実に地位が高くなり、扱うことを許される情報の機密性も高まっていった。

 スノーデンはやすやすと米情報機関の内側に入っていく間、自分の思想信条を隠すこともしなかった。監視国家への嫌悪など、自分の主義主張をオンライン上で公然と訴えていた。

 スノーデンのやったことは、強い意志と忍耐さえあれば、どのような外国勢力でも実行できることだ。イランや中国、国際テロ組織アルカイダなどの勢力がスノーデンのような人物の糸を引く可能性もある。というより、既にそのようなことが行われていないとも限らない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中