最新記事

米政治

「ウォール街」と「茶会」の近親憎悪

リベラルvs保守、懐古主義vs未来志向……正反対に見えるウォール街占拠運動とティーパーティーの意外な共通点

2011年11月16日(水)14時16分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)

強硬手段へ 15日未明からデモ拠点の強制撤去を始めたニューヨーク市警 Brendan McDermid-Reuters

 あらゆる問題を「大きな政府」のせいにし、単純なメッセージでアメリカ政治に一大旋風を起こした草の根保守派連合ティーパーティー。その誕生は、09年2月に経済評論家リック・サンテリが上げた雄たけびがきっかけだった。

 オバマ政権が発表した住宅ローン救済策に激怒したサンテリは、テレビでシカゴ・マーカンタイル取引所からリポートしている最中に、1773年にイギリスの植民地政策に抗議したボストン・ティーパーティーならぬ「シカゴ・ティーパーティー」を呼び掛けた。

 対するウォール街占拠運動はその2年半後の今年9月17日、大量消費社会を批判する非営利団体が発行するカナダのアドバスターズ誌の呼び掛けで始まった。アラブの春に触発された編集者たちが、「強欲」な金融業界に対する大規模デモを提唱したのだ。

 起源以外にも2つの運動はずいぶん違う。ティーパーティーは純粋にアメリカの運動で、評論家の呼び掛けをきっかけに自発的に盛り上がった「持てる者」の反乱。これに対してウォール街占拠運動はグローバルな広がりを持ち、筋金入りの活動家がメールで企画した「持たざる者」の反乱だ。

 とはいえ、2つの運動には共通点もある。例えば経済的な不公平に対する怒り。ティーパーティーは政府の介入を市場経済の原則からの逸脱だと、ウォール街占拠運動は金融業界による行き過ぎた市場経済の実践に怒っているが、エリート層や政治制度への不満は共通している。

 アメリカで今こうした動きが出てきたのはなぜなのか。彼らは何を変えるのか。2つの運動をもう少し詳しく比較してみよう。

■草の根運動 ティーパーティーは草の根運動なんかじゃないという批判がある。

 4月のタックスデー(確定申告の期限日)のデモはFOXニュースが大々的に宣伝したし、ニュースキャスターのグレン・ベックやサラ・ペイリン前アラスカ州知事ら著名人の旗振り役もいる。アメリカで指折りの富豪が活動資金を提供し、一時はティーパーティー旋風にあやかろうとする共和党の政治家が殺到した。

 これとは対照的に、ウォール街占拠運動は大手メディアや既存の組織のサポートを受けていない。著名投資家のジョージ・ソロスが間接的に資金援助をしているのではないかという報道もあったが、ソロス自身はアドバスターズなんて名前は聞いたこともないと言っているし、アドバスターズもソロスから資金を受け取ったことはまったくないと言っている。

 最近は労働組合幹部が積極的にアプローチしているが、今のところ大きな影響力は得ていない。

■メッセージの一貫性 ティーパーティーの主張は小さな政府、減税、歳出削減、そして規制緩和と、かなりはっきりしている。だがウォール街占拠運動にはまとまりがない。「金融機関を処罰しろ」「金融機関の従業員や役員の給料を減らせ」「金融規制を強化しろ」「社会の格差が広がっている」「失業者が増えている」「政治はカネに左右されるな」「資本主義がうまく機能していない」......。

 とはいえ、ウォール街占拠運動はまだ1カ月しかたっていない。ティーパーティーも2年前は、自由と憲法重視以外は何を主張しているのかよく分からなかった。ただ、CEOの破格の報酬などウォール街の参加者が最も不満に感じていることは、政治の力では是正しにくいだろう。

■インパクト ティーパーティー旋風は、昨年の中間選挙で共和党に大きな勝利をもたらす一因だった。しかしこれに先立つ共和党内の予備選で「本選では勝てない候補」が相次いで選ばれる現象も起きて、結果的に共和党の上院での議席増は限定的だった。

 これまでのところティーパーティーにとって最大の「戦果」は、ジョン・ベイナー下院議長をバラク・オバマ大統領による連邦債務の上限引き上げに反対させたことだろう。それ以外は具体的な政治実績はないものの、共和党を右傾化させることに成功している。

 だが最近はその影響力も弱まっているらしい。共和党は来年の大統領選に向けて、ティーパーティーが気に入らなさそうなミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事を大統領候補に選びそうだ。

 ウォール街占拠運動も具体的な実績はゼロだが、リベラル派の伝統的支持基盤を活性化することで民主党の左傾化を促している。

■スタイル ティーパーティーの理念は無政府主義的でスタイルは保守。支持者は弁当持参で集会にやって来て、夜になったら帰宅するような中年の白人中流層が多い。これに対してウォール街占拠運動は、理念はリベラルでスタイルは無政府主義的。デモ隊は帰りのバスに乗るのを忘れたサマーキャンプの参加者たちのようだ。

 ティーパーティーは、社会における自分の居場所を失うことに不安を感じる人々が中心となっている懐古的な運動だ。これに対してウォール街占拠運動は、自分たちが夢見る生活はできないかもしれないと不安を抱く人々による未来志向の運動。見た目はクールだが、キャンプだから臭いはきつそうだ。

■組織と戦術 ティーパーティーは上位下達的な意思決定システムを構築してきた。これに対してウォール街占拠運動は、水平的でコンセンサスを重視する。どちらも非暴力を旨とするが、例外はある。

 ティーパーティー支持者は昨年、ワシントンで開かれた大規模集会で、人種差別的な暴言を吐き、複数の議員に向けてつばを吐く、という醜態をさらした。

 ウォール街占拠運動の参加者は警察と衝突し、長期にわたり公園でキャンプを張っている。迷惑だと、近隣からは苦情が出ているが、市民的不服従と警察とのにらみ合いという戦術、そして逮捕されることもいとわない姿勢は、彼らの運動に注目と同情を集めるという点で効果を発揮しつつある。ニューヨーク市警が、足止めを食らわされた女性デモ参加者に催涙スプレーを吹き掛けた映像は、現場の状況を広く知らしめた。

 ティーパーティーとウォール街占拠運動は、お互いが全然違うという点では本人たちの意見も一致するだろう。2つのグループの文化的・イデオロギー的なギャップは極めて大きく、どちらも比較されることさえ嫌がる。

 けれども予期せぬ自然発生的な運動がアメリカの政治風景を変えているという意味では、彼らは見た目よりも共通点が多い。しかもその共通点は、本人たちが認めるよりもはるかに強烈だ。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年10月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は500円安 日銀ETF売却が利益確定の口

ワールド

パナマ、LPGパイプライン事業者選考の入札手続き開

ビジネス

日銀、保有ETFの売却開始を決定 簿価で年3300

ワールド

グアテマラ人の子どもの強制送還、米地裁が差し止め継
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中