最新記事

アメリカ政治

オバマ演説で遠のくアメリカ財政再建

財政赤字は減らしてほしいが社会保障給付の削減には反対、という世論の矛盾と正面から向き合うのが指導者の使命

2011年3月3日(木)12時50分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

どこかの国と同じ 一般教書演説でも痛みを伴う財政赤字をどう実現するかの説明はなし(1月25日) Pablo Martinez Monsivais-Pool-Reuters

 先週、米議会で一般教書演説を行ったオバマ米大統領は、アメリカの財政が置かれている現状を国民にきちんと説明せずに演説を終えた。

 アメリカ人は皆、財政赤字を減らしたいと思っている。カイザー家族財団の調査では、54%が議会と大統領に「迅速な行動」を求めており、57%が増税よりも歳出削減を支持している。

 だが社会保障給付の削減には64%が反対だ。メディケア(高齢者医療保険)縮小には56%、メディケイド(低所得者医療保険)縮小には47%が反対している。一般教書演説はこうした矛盾と正面から向き合い、次々に歳出を増やす政府の実態を国民に知らせるチャンスだった。

 だが国民が聞かされたのは中身のない話ばかり。アメリカが今後「借金の山に埋もれる」ことはない? 一体何の話だ。われわれはとっくに借金の山に埋もれている。アメリカは「未来を勝ち取る」? 自分に嘘をつかない限り無理だろう。

 莫大な財政赤字の原因が不況だけなら、問題はさほど深刻ではない。景気が上向けば税収が増えて、失業保険やフードスタンプ(低所得者向けの食料引換券)の給付は減るから赤字は縮小するはずだ。だが今のアメリカの財政赤字は性質が違う。

 10年度の連邦政府の財政赤字は1兆3000億ドル。このうち約7250億ドルは「構造的」赤字だと、ムーディーズ・エコノミー・ドットコムのマーク・ザンディは言う。つまり経済が絶好調に戻っても、この収支のギャップは消えない。

 大統領が正確な情報を示さなければ、政府は誰のために何をするべきかという問題についてまともな議論はできない。特に財政に関しては3つの大きな幻想がある。

幻想1)問題は赤字だ

 本当の問題は高齢者関連の歳出(社会保障給付、メディケア、メディケイド)の急増だ。増税で赤字を減らしても、根本的な問題の解決にはならない。それに急激な増税は、せっかくの稼ぎを引退生活者に奪われるというマイナス感情を若者の間に生む恐れがある。

幻想2)仕分けをすればいい

 保守派の議員連盟である共和党研究委員会(RSC)は先月、今後10年間で2兆5000億ドルの歳出削減案を発表した。国防と高齢者福祉を除く多くの事業を廃止するものだ。

 確かに無駄な事業は多いが、これでは研究機関や運輸機関、FBI(連邦捜査局)など政府の重要な機能も苦境に立たされる。それにRSC案は対象分野の予算を35%圧縮する大胆なものだが、7兆〜10兆ドルに達する今後10年間の財政赤字のうち3分の1程度しか減らせない。

幻想3)社会保障給付は高齢者が税金の形で蓄えてきたものだ

 それは違う。社会保障給付もメディケアも現在の税収を財源にしている。しかも平均的な高齢者が受ける手当は、彼らが現役時代に支払った社会保障税の全額分を大幅に上回る。

 財政赤字に簡単な解決策はない。財政を健全化するには社会保障給付の削減、国防を含む政府事業の縮小、増税の3つを組み合わせる必要がある。

 オバマは選択を避けているだけでなく、どういう選択肢があるのかも示さなかった。だから世論は混乱したままで、その世論に振り回される政治家は断固たる行動を起こせない。これではアメリカは投資家の信頼を失い、米国債やドルから大規模な逃避が生じる可能性がある。

 あるエコノミストが最近フィナンシャル・タイムズ紙にこう書いた。「危機が起きなければ、責任ある財政を回復できないわけではないと祈りたい。だがそうなる予感がする」

 そのエコノミストとはピーター・オルスザグ。オバマ政権で昨年7月まで行政管理予算局長を務めていた人物だ。

[2011年2月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ルノー、EV子会社「アンペア」閉鎖へ 前CEOの旗

ビジネス

ロレアル、インドに美容技術ハブ設立へ 30年までに

ビジネス

再送-ネットフリックス共同CEO、ワーナー資産買収

ワールド

プーチン氏、米特使と22日会談と表明 凍結資産活用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の核開発にらみ軍事戦略を強化
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    飛行機よりラク? ソウル〜釜山「110分」へ――韓国が…
  • 6
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 7
    【総選挙予測:自民は圧勝せず】立憲・公明連合は投…
  • 8
    「怖すぎる...」モルディブで凶暴な魚の群れに「襲撃…
  • 9
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中