最新記事

米政治

オバマよ「スプートニク後」を語れ

中国の台頭は第2のスプートニク・ショック。ソ連に出し抜かれた時と同じ危機感とやる気を喚起すべきだ

2011年1月27日(木)14時51分
ジョナサン・オルター(本誌コラムニスト)

 バラク・オバマ米大統領の立法実績は、公民権法を推進したリンドン・ジョンソン元大統領以来の歴史的なものだ(代表は医療保険制度改革法や景気対策法)。だが最終的に政治家の勝ち負けを分けるのは、最後にどんな恩恵を有権者にもたらしたかということ。そんな政治の世界でオバマは今、国家に新たな針路を指し示す必要に迫られている。

 オバマは最近、この国は「スプートニク的な瞬間」にあると語った。ソ連が人工衛星スプートニクの打ち上げに世界で初めて成功し、アメリカに衝撃が走った1957年10月4日のことだ。ロシア生まれの私の祖母は、その2日後に生まれた私のミドルネームをスプートニクにしようとジョークを言ったが、冷戦真っただ中の当時はあまりウケなかったという。

 一方でスプートニク・ショックは現在の世界を作り出すのに重要な役割を果たし、2つの結果をもたらした。1つ目は58年にNASA(米航空宇宙局)が設立されたこと。人間を月に送っただけでなく、コンピューターや新素材などの分野でいくつもの大きな発展を成し遂げた。

 2つ目は同じ年に国家防衛教育法が成立し、政府の教育投資が6倍近くに増えたこと。経済的に遅れたソ連に数学と科学で出し抜かれたアメリカにとって、技術革新と教育は安全保障の問題になった。

 冷戦時代の軍拡を経済に置き換えれば、今も競争の構図は同じ。中国の台頭はスローモーションで襲ってきたスプートニク・ショックのようなもの。そしてアメリカは、切迫した脅威への対応は速くても中長期的な脅威に対する対応は鈍いのが常。地球温暖化もその1つだ。

 だが経済的脅威は遠い先のものではない。10%の失業率と中間所得層の空洞化は現実となっている。数学と科学で競争相手に後れを取ることももはや仮定ではなく、既に現実だ。アメリカにとって幸いなのは、今の大統領が人々をやる気にさせる演説術を持っていること。不幸なのは、実際にはまだ誰もやる気にさせていないことだ。

 大統領としての最初の2年のオバマの最大の過ちは、マリオ・クオモ元ニューヨーク州知事の名言「選挙は詩的に、統治は散文的に」を真に受け過ぎたこと。現実に成功するためには統治も詩的でなければならない。ウォール街に奪われたアメリカの頭脳を数学や科学や工学や起業などの分野に取り戻すため、オバマは今こそ大統領選のときに見せた聴衆をとりこにする演説術を駆使する必要がある。

大理石に刻まれるフレーズを

そこで、1月末に行う一般教書演説が重要になる。オバマが休暇中に、アメリカを再び技術革新国家にする方法を熟考していたことを期待しよう。税制改革(給与支払税を軽減すれば、ベンチャー企業で数百万人の雇用が生まれるだろう)、移民の受け入れ拡大(移民の子の世代は、歴史的にアメリカの経済成長を押し上げてきた)、クリーンエネルギー政策や教育政策などは、いずれも技術革新を後押しする重要施策だ。

 だがそれを実現するには、もっと聴衆の心の奥深くに訴える必要がある。ファシズムから民主主義を守ろうと訴えたフランクリン・ルーズベルトの「運命とのランデブー」や、ジョージ・W・ブッシュの「悪の枢軸」といった言葉が国を動かしたように。オバマがレームダックになるのを避け、残りの任期で成果を出すのに必要な推進力を得るためには、大理石(あるいは最低でもツイッター上)に刻まれるくらいの価値があるフレーズが必要だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国8月鉱工業生産・小売売上高伸び鈍化、刺激策が急

ワールド

アングル:学校から排除されたアフガン少女、頼みの綱

ワールド

アングル:水大量消費のデータセンター、干ばつに苦し

ワールド

アングル:米国のインフルエンサー操るロシア、大統領
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 5
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 6
    ウクライナ「携帯式兵器」、ロシアSu-25戦闘機に見事…
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 7
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 10
    ロシア国内の「黒海艦隊」基地を、ウクライナ「水上…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中