最新記事

回顧録

ブッシュ、WMDないと知って気分悪くなった

『決断の瞬間』の出版を機に退任後初めてインタビューに応じたブッシュ前米大統領がのぞかせた弱気な一面

2010年11月10日(水)16時21分
ダニエル・ストーン(ワシントン)

評決を待つ身 少し距離を置いた歴史の評価がブッシュの心のよりどころ(10月15日) Jeff Haynes-Reuters

 ジョージ・W・ブッシュは大統領在任中、支持率が90%にも達した最高の瞬間がある。それは9・11同時多発テロの起こった翌週のこと。それまで賛否の分かれる大統領だったブッシュが、突如として誰からも支持される存在になったのだ。

 その8年後の大統領退任時、彼の支持率は30%以下にまで落ち込んでいた。大した問題ではない、と今、ブッシュは語っている。在任中に支持率や批判を気にしたことは一度もなかった、と。自らが下し、政権の大半を動かしてきた数々の決断に対して、ブッシュが絶対的な自信と確信を持っていることがうかがえる。

 大統領職を退いてから初めてとなるNBCテレビのインタビューの中で、ブッシュは9・11からハリケーン・カトリーナ、2008年の経済危機まで、在任中のあらゆる重要問題について口を開いた。

 イラク戦争で拙速過ぎる勝利宣言を出したこと、カトリーナで打撃を受けたルイジアナ州ニューオーリンズの被災地を大統領専用機の窓ごしに視察する姿が報道されたこと――ブッシュは時には間違いを犯したこともあったと自ら認めた。それでも、その時々の情報に従って自分が下してきた決断について、謝罪することは決してなかった。

 だがいつもは自分を疑いもしないブッシュが、弱気な一面も見せた。過去の決断を振り返ってみれば、必ずしも全てが賢い判断だったとはいえないかもしれない、とほのめかしたのだ。

 ブッシュは、開戦の根拠となった大量破壊兵器(WMD)がイラクに存在しなかったことを知って気分が悪くなったことを打ち明けた。銀行救済のための政策だったとして批判の多い08年の不良資産救済プログラム(TARP)についても語り、「人々はあの政策を毛嫌いしていることだろう」と認めた。

 しかしながら、アメリカの国民の半数以上がこの政策をバラク・オバマ大統領のものだと誤解し、その政策に批判的だとの統計を見せられると、ブッシュは笑い飛ばして言った。「国民の50%は、あの政策の内容さえ理解していない」

 ブッシュは、もしも過去に戻ったとしても自分は同じ決断を下すことだろう、と話した。

それでも当時の決断は正しかった

 在任中、ブッシュは過去を振ったり、いい時期と悪い時期を見つめ直して考えることなどほとんどしなかった。ブッシュは11月9日に出版された回顧録『決断の瞬間』の中で、またNBCのインタビューの中で、2期8年に及ぶ大統領在任中で最悪だった瞬間について語った。

 それは、カトリーナでの対応が遅れたことについて、ラッパーのカニエ・ウェストが24時間テレビで「黒人のことなど気にしていないからだ」と人種的偏見が原因だとする発言をしたときだったという。ブッシュはその時を在任中の「最悪の時」だったと表現した。

 カトリーナの被害に人々が苦しむ中、そんなことでショックを受けていたなんて自分のことしか頭にないと思われるのでは? そう問われたブッシュは、「かもしれないな」と答えた。

 インタビューでは、質問は何度もイラク戦争のことに戻り、繰り返し意見が求められた。おそらくイラク戦争こそが、ブッシュ政権を定義する出来事だからだ。

 誤った情報に基づきイラク戦争を開始したことについて、国に対して謝罪する意志があるか、と質問されると、ブッシュはこう答えた。「謝罪するときは通常、あの時の決断は誤りだった、と言うものだ。私は、あのときの決断が誤っていたとは思っていない」

 オバマ政権が禁止することとなった水責めによるテロ容疑者の尋問手法を擁護していたことについて問われると、ブッシュはこの手法は合法だったと答えた。なぜなら「弁護士が合法だと言ったからだ」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金現物、4500ドル初めて突破 銀・プラチナも最高

ワールド

イスラエル、軍ラジオを来年閉鎖 言論の自由脅かすと

ワールド

再送-ベネズエラが原油を洋上保管、米圧力で輸出支障

ワールド

豪NSW州で銃規制・ 反テロ法強化、乱射事件受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中