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ゲーツ辞意表明の今さら感

6つの政権に仕え、オバマの要請でしぶしぶ続投した国防長官が来年中に退任する意向を示したが……

2010年8月17日(火)16時43分
アラン・マスカレニャス

勇退宣言 オバマ政権に留任した当初は1年間だけ務めるつもりだった Kevin Lamarque-Reuters

 ブッシュ前政権の末期、疲れきったロバート・ゲーツ国防長官は時計を持ち歩くのが習慣になっていた。

 ゲーツに同情した友人が贈ったその時計は、2009年1月20日のバラク・オバマの大統領就任までの残り日数が表示されていた。その時には、ゲーツは国防長官の職を解かれるとみられていた。ニクソン政権以降6つの政権に仕えたベテラン政策通が退任の時を迎えるのを家族も待ち望んでいただろう。ゲーツ自身、留任の憶測を一蹴していた。

 その後の展開は周知の通り──オバマの要請に応え、ゲーツは続投した。そして8月16日、66歳のゲーツは外交専門誌フォーリン・ポリシー(電子版)とのインタビューで2011年に退任すると表明。退任すれば、ゲーツが持ち歩く時計は彼の業績を称える金時計に代えられるかもしれない。

 ゲーツは記事中、もし来年1月まで国防長官職にとどまればアメリカ史上5番目に在任期間の長い国防長官になると語っている。それより在任期間が長いのはロバート・マクナマラ、ドナルド・ラムズフェルド、キャスパー・ワインバーガー、チャールズ・ウィルソンの5人。いずれも全盛期を過ぎてもポストに居座ったと評されている。

 ゲーツは来年の退任時期について、中間選挙が終わり大統領選挙の熱狂が始まる前の理想的なタイミングだと考えている。「2012年1月まで引き伸ばすのは間違いだ。その時期に適任者を探すのは難しい。オバマ政権の任期が残り1年になってしまう。国防長官というポストは、大統領選が行われる年の春に就任するべきものではない」と語っている。

なぜこれ程長く在任したのか

 驚きなのは、ゲーツが退任することではなく、これ程長く在任したことだ。イラクとアフガニスタンで戦火が続く中、オバマからの要求をゲーツは拒否できなかった。「2つの戦争で多くの米兵が傷つき、死んでいる中で私にノーと言えるはずがなかった」

 ブッシュ前政権から留任した当初、ゲーツは1年間だけ務めるつもりだった。だがそれ以降、彼はオバマ政権の欠かせないメンバーとなった。ゲーツは国防予算の改編を進め、来年夏の米軍撤退開始を見据えてアフガニスタン駐留米軍を10万人に増派した。アフガニスタン駐留米軍司令官のデービッド・ペトレアスは8月15日に放送された番組の中で、アフガニスタンの安定化は長期的な取り組みだと強調し、撤退時期を遅らせる可能性を否定しなかった。

 今年11月の中間選挙後にはオバマ政権の閣僚人事が入れ替わると予想されている。ゲーツが来年の退任を最良の時期と判断したのはもっともな話だ。

 しかしオバマがアフガニスタン戦略を微調整せざるを得ないこの状況下では、彼の続投を求める声が再び上がることも容易に考えられる。何しろ、ゲーツには引退計画を変更した過去があるのだから。

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