最新記事

アメリカ政治

イギリスに学べ「超高速で新政権」

ブラウン前英首相は即座に官邸を去った。大統領選後2カ月以上も現職が居座るアメリカでも、その気になれば素早い政権移行が可能だ

2010年5月18日(火)17時27分
アキル・リード・アマール

お手本 英保守党のデービッド・キャメロンは、総選挙勝利からわずか5日後に新政権を発足させた Jeff Overs-BBC-Reuters

 世界がスピードを上げて変化するなか、アメリカの民主主義はそのペースに追いついているだろうか。

 今月に入って、テネシー州で大洪水が発生し、テロリストがニューヨークに攻撃を仕掛け、メキシコ湾海底油田では大量の原油が流出。株価は暴落し(後に持ち直した)、アイスランドの火山灰が空中を漂っている。

 これらの事態に、米政府は極めて迅速に対応した。投資家を落ち着かせ、テロ容疑者を逮捕し、航空機の飛行規則を変更し、原油流出現場に作業船を派遣した。

 だが、もしもしかるべき指導者が不在の期間に一連の事件や事故が発生していたら? つまり、大統領が11月の大統領選で有権者から「退場」を命じられてから、実際にホワイトハウスを立ち退くまでの間の「死に体」期間だったら、政府は同じように対応できただろうか。

政権移行の日程は憲法に書かれているが

 この点で、イギリスとアメリカは対照的だ。先日の政権交代を見ればわかるように、イギリスでは選挙の敗者は即座に権力の座を明け渡す。ゴードン・ブラウンは政治的に死んだ。デービッド・キャメロンに幸あれ!

 一方、アメリカでは、ジョージ・W・ブッシュは有権者に明確なノーを突きつけられた後も2カ月以上、政権にとどまり続けた。経済が急速に冷え込んでも、国民の信託を受けたバラク・オバマには何の手出しもできなかった。

 もっとも、アメリカの歴史を振り返れば、新大統領の就任に4カ月近くかかったり、上院議員選挙から新議会発足まで1年1カ月を要した時期もあった。

 それに比べれば、10週間で新大統領が誕生する現状はマシかもしれない。今後は21世紀のスピード感に合わせて、イギリス並みの迅速な政権交代が可能になるのだろうか。

「それは無理」というのが、一般的な見解だ。新政権への移行をめぐる具体的な日程がアメリカ合衆国憲法に記されているため、大規模な憲法改正を行わないかぎり、イギリスのような迅速な対応はできないと信じられている。

 だが実は、憲法をいじることなく、政権移行プロセスを劇的にスピードアップする方法はある。政治的慣習を思い切って変えるだけでいい。

2012年、「敗者」オバマがすべきこと

 2012年11月の大統領選で、共和党のミット・ロムニー候補と副大統領候補クリス・クリスティーが、バラク・オバマとジョー・バイデンのコンビを破ったとしよう。オバマの敗北宣言の直後に、ロムニーが大統領に就任するには、次のようにすればいい。

 まず、ゴードン英首相のように、バイデン副大統領が潔く辞任する。次に、憲法修正第25条を利用してオバマ大統領がロムニーを副大統領に指名する(1973年、リチャード・ニクソン大統領がスピロ・アグニュー副大統領の辞任を受けて、ジェラルド・フォードを後任に指名したのと同じだ)。

 議会は賛成票を投じることでロムニーの就任を承認できる。そのうえでオバマが辞任し、ロムニーに大統領の座を譲ればいい。

 ロムニーは修正第25条を使って、クリスティーを新たな副大統領に任命できる(1974年、大統領になったフォードがネルソン・ロックフェラーを副大統領に指名したのと同じだ)。

 さらに、ロムニー大統領は閣僚も指名できる。新大統領の閣僚人事を尊重するというハネムーン期間の伝統にのっとって、議会は数日でこの人事を承認するだろう。

100年前の「前例」を示せばいい

 オバマとバイデンが次期大統領選でこの方法を使うつもりがあるのなら、事前にその旨を周知し、共和党候補や有権者に心の準備をさせる必要がある。その際には前例を示すといい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港民主派メディア創業者に有罪判決、国安法違反で

ワールド

米、ブラジル最高裁判事への制裁解除 前大統領の公判

ビジネス

中国粗鋼生産、11月は23年12月以来の低水準 利

ビジネス

吉利汽車、2.84億ドル投じ試験施設開設 安全意識
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中