最新記事

贖罪

ウッズ「仏教で更生」はホント?

2月19日の謝罪会見で仏教への帰依について語ったタイガー・ウッズだが……

2010年2月22日(月)17時56分
リサ・ミラー(宗教問題担当)

ブッダの教え 2月19日に不倫騒動後初めて開いた記者会見で(フロリダ州のゴルフ場「TPCソーグラス」のクラブハウスで) Reuters

 2月19日のタイガー・ウッズの記者会見は、この種の謝罪会見の「お決まり」の内容におおよそ終始した。ウッズは、妻、ファン、スポンサー、友人、母親に謝罪し、プライバシーを尊重してほしいと懇願し、立ち直るための時間を自分に与えてほしいと言い、そして信仰について語った。

「お決まり」でなかったのは、その信仰の内容だ。13分間の会見の中でウッズはこう述べた。「衝動に振り回されて行動することをやめて、自制することを学びなさいと、仏教は私に教えてくれていました。それなのに、私はその教えを見失っていたようです」

 リハビリ施設に入り、そこで「神」を見いだし、償いをする----この流れ自体は、なんらかの依存症で問題を起こしたセレブの行動として珍しいものではない。

 しかしキリスト教(やユダヤ教神秘主義)ならともかく、仏教というのは珍しい。東海岸や西海岸のリベラルなエリートの間ではちょっとした流行になっているし、アメリカでも信者が増えているのは事実だが、セレブの改心を印象づけるための「贖罪」の宗教というイメージはあまりない。

実は子供時代から仏教徒

 もっとも、ウッズにとって仏教は元々馴染みのある宗教だ。子供時代に仏教徒として育てられたウッズは、自分でも仏教徒という自覚を持っているらしい。黄金のブッダのペンダントを身に付け、祖父から贈られた真珠層のブッダ像を大切にしている。

 母親(仏教国のタイ出身)と一緒に頻繁に仏教寺院に足を運んでいると、96年のスポーツ・イラストレーティッド誌のインタビュ−では述べている。お寺では米や砂糖や塩を僧侶に寄進し、仏教の教えどおりに、あらゆる物質的なものを捨てることを誓う、とのことだった。

「仏教の好きなところは、生き方全般を貫く指針を示してくれること」だと、ウッズはこのインタビュ−で言っている。「仏教の土台にあるのは、自己規律と他人への敬意と責任感だ」

 どうしても湧いてくる疑問は、ウッズがどこまで本気で仏教の教えを実践するつもりでいるのか、という点だ。教えどおりに利己主義的な欲望を捨てるのであれば、性欲や肉体的快楽も当然捨てなくてはならない。

 96年のインタビュ−を読む限り、その点はおぼつかない。「欲求や欲望をすべて捨て去りたいとは思わない」と、ウッズは述べている。「物質的なものを楽しんでもいいと思う。それがないと生きていけない状態にさえならなければいい」

「みそぎ」のための方便?

 もちろん、途中で道を見失っても、その後に真摯に改心すれば問題はない。その点では、卑しい欲望に打ち勝つための自己規律と行動を重んじる仏教ほど、贖罪に適した宗教はないのかもしれない。キリスト教に改宗しなければウッズの悪癖は克服できないと、FOXニュースのコメンテーターのブリット・ヒュームは述べたが、贖罪を促す機能に関してキリスト教と仏教の間に優劣はない。

 そうなると問題はやはり、ウッズの「本気度」ということになる。記者会見で仏教の教えに言及した真意はどこにあるのか。不祥事を起こしたセレブが社会復帰するための通過儀礼として、宗教を持ち出したに過ぎないのか。それとも、いつの間にか見失っていたものを取り戻すために、本気で努力するつもりがあるのか。

 もし後者であれば、これまでにすべてを手にし、これからそのすべてを失うかもしれないウッズにとって、この宗教から学ぶべき点は多いはずだ。

 欲望を捨てるためには、「正しく見る」「正しく判断する」「正しく行動する」「正しく努力する」......など8つの正しい道を実践すべきだと仏教は教えている。その8つの道を歩む途中で、ウッズは多くのものを手放すことを学ばなければならないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中