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米副大統領失言に隠されたバイデンの手腕
バイデン米副大統領の失言は、これまでもしばしば物議を醸してきた。だが失言騒ぎだけに注目していると、重要な事実を見落とすことになる。バイデンはおそらくオバマ政権の誰よりも、アメリカの対欧州政策の形成に貢献しているのだ。
上院外交委員会の委員長を長く務めたバイデンは、ワシントンとヨーロッパの両方で大きな信頼を得てきた。今年1月に副大統領に就任してからも、彼はしばしばヨーロッパを訪問している。2月のミュンヘン安全保障会議では、緊張が続いていた対ロシア関係の「リセットボタン」を押す時だと発言した。
5月に旧ユーゴスラビア3カ国を歴訪した際にはコソボの独立支持を確認する一方で、セルビアとの関係改善に努めた。7月にはグルジアとウクライナを訪問。両国に政治改革を求める一方で、両国を犠牲にする形で米ロ関係の改善を行うことはないと断言した。
「(バイデンは)ヨーロッパにとって最も難しい課題に取り組んできた。バルカン半島と東ヨーロッパ、そして旧ソ連圏を含む包括的で自由なヨーロッパをいかに発展させるかという課題だ」と、ブッシュ政権で国家安全保障会議(NSC)のメンバーだったデーモン・ウィルソンは評価する。
バイデンは7月25日付のウォールストリート・ジャーナル紙との会見で、「経済が衰えつつある」ロシアは、西側との交渉で譲歩せざるを得なくなる可能性を指摘。ロシアからの猛反発を招くとともに、外交関係者からは浅はかだと冷笑された。
だがこの発言は、アメリカの対ヨーロッパ政策に関して、最も率直で誠実な提案をしているのは、バイデンその人だという証拠でもある。
アメリカが目指すべきは、アフガニスタンや核不拡散などの共通の問題でロシアと協力することだ。「ヨーロッパはかくあるべし」というロシア政府の考えを黙って受け入れることではない。バイデンの率直な発言は、それを思い起こさせてくれた。
[2009年8月19日号掲載]