【密着ルポ】オープンAIのサム・アルトマンは、オッペンハイマーに匹敵する超人か? 密着して見えてきた、生成AI最前線に君臨する男の素顔と頭の中

THE REAL SAM ALTMAN

2024年2月2日(金)18時50分
エリザベス・ワイル(ニューヨーク・マガジン誌特集担当ライター)

240206p22_APL_02.jpg

位置情報共有サービスの「ループト」を立ち上げて間もない22歳のアルトマン SHERRY TESLERーTHE NEW YORK TIMES/AFLO

好ましい面としては、「妄想に近いレベルの強烈な自信」を持っていて、「長い目で見たテクノロジーと社会の変化を見通す能力にたけて」いる。そして、ユダヤ系として自分は楽天主義者であると同時に、最悪の事態も想定している。ほかの人間の考えていることに影響を受けないので、リスク評価が極めて得意だという。

しかし、AIのリーダーとしては情緒面でも属性面でも自分は適任とは言えないという。「(その役割を)もっと楽しめる人がいるはず。もっとカリスマ性がある人もいるはず」だと、以前出演したポッドキャストの番組で語っている。自分が「大半の人の生活の現実を知らない」ことも自覚している。

サンフランシスコのイベントの司会者が尋ねた──自身が開発しようとしているAIに、どのようにして価値観を持たせるつもりなのか。

1つの方法は、「人類社会の知恵をできるだけ多く結集させて」グローバルなコンセンサスを育むことだと、アルトマンは言った。「どのような価値観を持たせるべきか、絶対にさせるべきでないことは何か」をみんなで決めようというわけだ。

この言葉に聴衆が静かになった。

あるいは、「『あるべき価値観はどのようなものか、それをどのようにシステムに実行させればいいか』をジャックに10ページほどの文章にまとめてもらってもいい」とのことだった。

聴衆は一層静まり返った。

アルトマンは、自身が主導する革命が「ありきたりのテクノロジーの革命より大がかり」になると確信している。その一方で、テック起業家たちと接してきた経験を通じて、「『今度は本当にすごいぞ』といった類いの発言がいかに人をうんざりさせるかもよく知っている」と言う。

それでも、何らかの革命が起きることは確実だと思っている。少なくともAIは、政治、労働、人権、監視、経済的不平等、軍事、教育の在り方を根本から変えるだろう。

そうだとすれば、アルトマンという人間が何者かは、私たち全員の大きな関心事にならざるを得ない。

しかし、それを読み解くことは難しい。この人物は、どれくらい信用できる人間なのか。そして、人々の抱く不安にどれくらい配慮するつもりがあるのか。

人々の不安を和らげるために出席したイベントの壇上ですら、その点はあやふやだ。できるだけ革命のペースを落とそうと努力すると語る一方で、その革命は問題ないと思うとも述べた。たぶん問題ない、と。

こんな言葉もあった。「あなたに嘘をついて『それを完全にストップさせることはできます』と言うこともできる。でも......」

話は途中で終わってしまった。そこで私は8月のある日、続きを聞くために、サンフランシスコのブライアント・ストリートにあるオープンAIのオフィスを訪ねた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

米FRB、金利は据え置きか 関税問題や中東情勢不透
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中