最新記事

中国半導体

習近平が推し進める半導体の国産化、自給率を1桁から7割超へ

ACHIEVING INDEPENDENCE

2022年12月2日(金)17時00分
汪哲仁(台湾国防安全研究院)
江蘇省にあるメーカーのシリコンウエハー製造ライン

中国政府はレガシー半導体で市場を圧倒しようとしている(江蘇省にあるメーカーのシリコンウエハー製造ライン) VCG/GETTY IMAGES

<アメリカの制裁で打撃を受けた中国メーカーが政府の強力な後押しを受けて巻き返しを図る>

中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が、技術的に大きな躍進を遂げた。カナダの技術情報メディア「テックインサイツ」によると、SMICは回路線幅が7ナノ以下の半導体の製造工程を確立したらしい。しかもこの技術が使われた半導体製品は、1年ほど前から出荷されていたという。

これはアメリカの制裁が甘すぎかつ遅すぎ、そして時代遅れである証拠だと、一部メディアは断じている。

これまでSMICが実用化に成功していたのは14ナノチップで、10ナノ以下の製造工程の確立を目指していると考えられていた。ただSMICは2020年12月に、米政府が半導体関連の先端技術や装置の提供を禁じる企業のリストに加えられてしまった。このため、微細な回路パターンをシリコンウエハーに形成するのに必要な極端紫外線(EUV)露光装置を、オランダの半導体製造装置大手ASMLから入手できなくなった。

理論的には、EUVがなくても先端半導体は作れる。この分野の世界的リーダーである台湾積体電路製造(TSMC)は、7ナノチップを量産化した当初、EUVよりも波長が長い深紫外線(DUV)露光装置を使っていた。

ただ、DUVを使うためには、フォトマスク(露光装置にセットするガラス基盤)を増やす必要があり、露光の回数も増えて、工程がより複雑になる。そうなると不良率が高くなり、1チップ当たりの製造コストも高くなる。このため現在では、DUVを使うことはビジネス的に有効な選択肢ではなくなっている。

だが、中国にとって半導体産業は戦略的なものだ。少々高くついても、先端半導体の国産化を実現することのほうが、彼らにとってはずっと重要だ。実際、SMICはDUVを使った7ナノチップの量産化に突き進んでいるようだ。

TSMCの劉徳音(リウ・トーイン)会長は、7ナノは半導体製造における分水嶺だと語っている。14ナノチップとの最大の違いは、単位面積当たりのトランジスタ数が大幅に増える(つまり集積回路の集積密度が高くなる)一方で、消費電力は大幅に減ることだ。従って、7ナノチップは14ナノチップよりはるかにパワフルだが、より経済的だ。

国産率1桁から7割超へ?

例えば、GPU(画像処理半導体)大手の米NVIDIA(エヌビディア)は、20年5月に発表したデータセンター向けGPU「A100」の演算回路Tensorコアに、TSMCの7ナノチップを採用している。これにより、性能は従来商品より20倍もアップする一方で、データセンターのサーバーを積むラック(棚)は25だったものが1つで済むようになった。

つまり7ナノチップを使ったコンピューティング技術は、人工知能(AI)やクラウドコンピューティングや高速通信規格5Gなどの形で、軍事用にも民生用にも活用できる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

グローバルな経済環境、今後も厳しい状況続く=英中銀

ワールド

モスクワ軍事パレード、戦闘用ドローン公開 ウクライ

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ビジネス

三井住友銀行、印イエス銀の株式取得へ協議=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 8
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中