最新記事
加齢

老人の記憶力は若者と差がない! 「加齢とともに忘れやすくなる」と言われる理由とは

2022年9月4日(日)11時50分
和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

記憶力の低下には男性ホルモンの減少が影響している

記憶力が落ちる理由の最後のひとつは、生物学的な理由です。中高年以降、男性ホルモンが減少していきますが、それが記憶力の低下につながることは意外に知られていません。男性ホルモンの減少は、記憶に影響する神経伝達物質のアセチルコリンを減らすことにつながっているとみられているのです。

また、セロトニンなどが減ってうつ病になると、周囲に対する関心や注意が減るため、記憶力が急激に衰えます。とくに老年性のうつ病では、記憶力低下が著しく、認知症と誤診されることも珍しくありません。

ここからは、記憶力以外の"脳力"、思考力や判断力について、お話ししていきましょう。思考力や判断力を司っているのは大脳の前方にある前頭葉ですが、"使っているようで使っていない"のが、この前頭葉です。平穏無事な暮らしを送っている人ほど、その傾向は強まります。日常、さしたる問題がなければ、毎日、同じことをしていればいい。すると、前頭葉を使う機会は、ほとんどなくなってしまうのです。

「なぜ?」と考える習慣をもつといい

前頭葉を働かさずにいると、前述した「廃用現象」が起きます。使わない機能、器官は衰えていくのですが、加齢するほどに、その傾向は強まります。前頭葉も急速に衰え、スカスカになっていくのです。一方、人間は、たとえば、トラブルに直面すると、「なんとか切り抜けなければ」と前頭葉を駆使することになります。

とはいえ、むろん、自分からトラブルの種をまく必要はありません。前頭葉を錆びつかせないためには、毎日「なぜ?」と考える習慣をもつといいでしょう。それだけでも、前頭葉を働かせることになります。たとえば、新聞を読み、テレビを見て、「なぜ、こんな事件が起こるのだろう?」と考えてみる。世の中には、「なぜ?」と思える事柄が、いくらでも転がっているはずです。

たとえば、ロシアのウクライナ侵攻に関して、「なぜ、ロシアは侵攻したのか?」「なぜ、ウクライナは善戦できたのか?」などと考えてみる。そうして、自分で疑問を設定し、観察力や推理力を働かせることが、前頭葉の錆びつきを防ぐのです。

和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)また、前頭葉は「想定外の出来事」が大好きですので、「結果がわからない」「失敗するかもしれない」というチャレンジも、前頭葉を刺激します。たとえば、株の売買やギャンブルをしているとき、前頭葉はフルに働いています。株やギャンブルでは、想定外の出来事が次々と起きます。むろん、大きな失敗は困りますが、「小失敗は許容範囲」くらいのつもりで、取り組んでみるのもいいと思います。

人生、安全策ばかりでは、前頭葉がどんどん衰えていきます。「山より大きな猪は出ない」くらいのつもりで、年をとっても、起業を志すなど、不確実性の海に乗り出すことも、"脳力"を保つ秘訣のひとつです。

和田秀樹(わだ・ひでき)

精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中