最新記事

ファッション

「古着=お古」の意識は完全に変わった...従来型アパレルの21倍も成長できた理由

THE OLD BOOM

2022年2月4日(金)10時59分
パク・ヘジュン、コセット・マーティネス(米オクラホマ州立大学)
古着ECサービスの倉庫

今や古着はファストファッションの強敵と目される AP/AFLO

<中古衣料・中古ブランド品ECサイトの発展と、消費者意識の変化が市場の急成長を後押し。古着が消費者と地球環境とアパレル業界を救う?>

巨大な力がアパレル業界をつくり替えようとしている。

その力とは古着だ。アメリカのアパレル市場規模は約3790億ドル。中古衣料のEC(電子商取引)サイトを運営するスレッドアップの報告書によれば、市場に古着が占める割合は2021年の360億ドルから25年には770億ドルと、今後4年で2倍以上になる。19年には古着関連の事業が、従来型アパレル小売業の21倍の速度で拡大した。

このあおりを食いそうなのがファストファッションだ。H&Mやザラに代表されるこの分野の企業は、2000年代初頭から急成長。使い捨ての衣料を大量生産してスピーディーに流通させ、安い価格で購買欲を刺激することでアパレル産業を塗り替えた。

30年にはファストファッションの市場規模は400億ドルになる見通しだが、古着の規模は840億ドルと予想される。

古着市場は実店舗と、デジタル再販プラットフォームに二分される。現在のブームを動かしているのは後者だ。

長年、古着とは文字どおり「お古」のイメージで、買い求めるのは主に安価な服を探す人かコレクターだった。

だが、意識は変わった。専門誌ジャーナル・オブ・グローバル・ファッション・マーケティングに発表された論文によれば、最近は多くの消費者が古着の質を新品と同等かそれ以上と考えている。若者の間では中古衣料を買って再販する「ファッションフリッピング」も流行している。

需要の増加と、個人間で手軽に中古衣料を売買できるトレードシーやポッシュマークといったプラットフォームの登場を受け、古着のEC市場はアパレル界の大きなうねりになりつつある。

中古ブランド品の市場も拡大した。鑑定済みの高級品を委託販売するECサイトのリアルリアルやベスティエール・コレクティブには、シャネルやエルメスの商品が並ぶ。この分野の市場価値は、19年に20億ドルに達した。

服の寿命を延ばす効果

コロナ禍の今は、手頃な価格もブームを後押ししている。この1年、消費者は特に必要でない衣類を買い控えるとともに、値段よりも品質を重視するようになった。

中古衣料の再販業者にとって新型コロナウイルスの感染拡大による経済の縮小は、サステナビリティー(持続可能性)への関心の高まりと相まって追い風となっている。

古着には、アパレル業界を活性化させるばかりか環境問題に寄与する可能性がある。古着が広まれば1着の服に対する所有者が増え、ファストファッション全盛期に短くなった服の寿命も延びる。服が廃棄されるまでに着られる平均回数は、00年代からの15年で世界的に36%減った。

ファストファッション製品と異なり、質のいい古着は価値が下がりにくい。新品ではなく上質な古着を買うことは、理屈の上では環境に優しい。

とはいえEC市場は安い衣類へのアクセスを増やし、過剰な消費をあおるとの批判もある。私たちが行った最新調査も、この可能性を裏付けた。

アメリカでポッシュマークのようなフリマアプリを頻繁に使う若い女性を対象に聞き取りを行ったところ、回答者は古着を買うことを、新品購入に代わる消費モデルとも衣料生産への依存を減らす手段とも見ていなかった。古着市場はむしろ、安い服と普通は手の出ないブランド品の両方を手に入れる場だった。

だが消費者の動機がどうであれ、リユースが増えることはアパレル業界の「ニューノーマル」に向けた大きな一歩だ。サステナビリティーの改善につながるかどうか見守りたい。

dx2022_mook_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE「成功するDX 2022」が好評発売中。小売り、金融、製造......企業サバイバルの鍵を握るDXを各業界の最新事例から学ぶ。[巻頭インタビュー]石倉洋子(デジタル庁デジタル監)、石角友愛(パロアルトインサイトCEO)

The Conversation

Hyejune Park, Associate Professor of Fashion Merchandising, Oklahoma State University and Cosette Marie Joyner Martinez, Associate Professor of Fashion Merchandising, Oklahoma State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官

ビジネス

円安、物価上昇通じて賃金に波及するリスクに警戒感=

ビジネス

ユーロ圏銀行融資、3月も低調 家計向けは10年ぶり

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中