超加工食品 脳の快感回路に作用する危険性を、欧米科学者が警告

KILLED BY FAKE FOOD

2022年1月31日(月)11時05分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

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LEW ROBERTSON/GETTY IMAGES

「超加工食品は食べる前から咀嚼されているようなものだ」と、ミシガン大学のギアハートは言う。

「口の中ですぐに溶けてしまう。あっという間に味蕾(みらい)に触れて、脳の報酬系や動機付けに関わる部位を刺激する。その後、体に吸収された際にドーパミンの第2撃が起きる」

超加工食品がもたらす脅威の深刻さに、政治家もようやく対策に動きだそうとしているようだ。

米政府監査院(GAO)は昨年8月、食生活と関連した慢性疾患と政府の対応策についての報告書をまとめたが、内容は気がめいるようなものだった。

17~24歳の若者のうち、体重が理由で米軍の採用基準に合わない人の割合は30%を超える。2018年には、連邦政府の医療関係支出(3836億ドル)のうち、心血管疾患や癌、糖尿病など食生活関連の病気によるものが54%を占めた。

また、こうした病気は2018年に死亡した人の半数を超える約149万人の死と関連があった。

ホワイトハウスに対しては、米国民の食生活をテーマにした会議の開催を求める声が超党派の議員から上がっている。

コリー・ブッカー上院議員(民主党)はこう述べた。

「アメリカは世界で最も豊かな国でありながら、栄養がなくカロリーばかり高い食品の過食を絶え間なく促すような食料システムをつくり上げてきた。これは病気を引き起こすとともに、国の医療費負担が年に数兆ドル規模で増え続ける元凶となっている」

「ソーダ税」への猛烈な反撃

公衆衛生当局は近年、「最も手が届きやすいところになる果物」とも呼ばれる高カロリー・低栄養の食品の対策に本腰を入れている。

例えば、炭酸や甘味料入り飲料の消費を減らすためにいわゆる「ソーダ税」の導入を提言し、政府の食料支援の対象食品を制限しようとしている。

それに対して食品業界は、ロビー活動や選挙資金の提供、世論への働き掛けなどに数千万ドルを投じ、猛烈な反撃に出ている。

カリフォルニア州では、4都市でソーダ税の法案が可決されている。

飲料業界は2018年に700万ドルを投じて住民投票を求める運動を支援し、地方自治体があらゆる種類の新しい税制度を導入する条件を厳格化しようとした。その後、カリフォルニア州議会が砂糖入り飲料への課税を12年間猶予することに合意し、業界は住民投票運動を取りやめた。

アメリカで食生活のガイドラインに「超加工食品」という言葉が出てくるのは参考文献欄だけだと、ニューヨーク大学のネスルは言う。この言葉が目立ち始めたら「食品業界は逆上するだろう」。

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