最新記事

銃規制

3Dプリンター製の自動小銃が米社会に及ぼす脅威

EASY TO MAKE 3D-PRINTED GUNS

2021年3月12日(金)17時20分
アリ・シュナイダー(ジャーナリスト)

年明け、キーベースからアイバンにグループ閉鎖の通知が届いた。同社の広報担当によれば、キーベースがビデオ会議システムのズーム(Zoom)に買収され、利用規定が改定されたことが理由だ。新たな利用規定では、武器や武器作り指南に関連するコンテンツは禁止されている。

ディターレンス・ディスペンストは1月20日以降、キーベース上での活動ができなくなり、自ら立ち上げた新たなチャットプラットフォームに移行。活動に参加していた仲間の多くもこちらに移った。彼らが目指すのは、設計者と愛好家が協力するコミュニティーを構築して自家製銃の技術を発展させるだけでなく、希望すれば誰でもそれらの銃を手に入れられるようにすることだ。

アイバンは、自分の目標は全ての人が銃を持っている社会の実現ではなく、全ての人が「銃を持つ決断ができるだけの技術力を持てるようにすること」だと言う。彼は銃所持の権利を支持しており、市民は権力と戦うため、あるいは自衛の手段として銃を所持すべきだと信じている。

彼はロマンチックな夢想家でもあるらしく、中国で弾圧されている少数民族ウイグル人など、政治的に抑圧されている人たちに自分たちの設計図を届けたいと願ってもいる。だがワイアード誌によれば、こうした設計図を最も欲しがっているのは米国内の極右過激派(例えばブーガルー運動など)のメンバーで、彼らは警察の捜査を逃れるために、絶対に入手経路を特定できない自家製の火器を求めている。

FGC9は、ダーウッドと名乗る匿名のデザイナーが作ったAP9と呼ばれるモデルを改良したものだ。アイバンは、コイル状の金属バネを使用した弾倉を3Dプリンターで製作し、金属管の中にらせん状の溝を刻み付け、銃身をデザインした。複雑に聞こえるかもしれないが、実際は塩水と電気、巻き付けるための銅線を用いれば、3Dプリントした鋼鉄の心棒に化学変化で比較的簡単に溝を刻み込める。ディターレンス・ディスペンストのサイトには完全なマニュアルがアップされており、アメリカ国外でも製造できるよう、寸法もメートル法に変換してある。

FGC9は彼が知る限り最も簡単で安価、かつ手に入れやすく信頼できる半自動のDIY銃器だとアイバンは言う。むろん、アウトドアショップに銃を買いに行くよりは手間がかかる。しかし、銃が欲しくて学ぶ意欲があれば、誰でも家で作れるほど簡単だ。なにしろオンラインで作り方を指南してくれる人が何千人もいる。3Dプリンターや金属パイプを禁止する以外に、この流れを止めることは不可能だろう。

銃規制が効かなくなる日

設計ソフトの流通を規制しても、あまり効果はなさそうだ。ソフトはブロックチェーンを使って配布されているので、サーバーを突き止めても流通は止められない。それにFGC9のデザインは最初にアップロードされたサイトだけでも既に4万4000回以上閲覧されており、他のサイトにもコピーされている。

アメリカの銃所持者にとって、今は不安を感じる時期だ。フロリダ州パークランドの高校での銃乱射事件から3年を迎えた2月14日、ジョー・バイデン米大統領は殺傷能力の高い銃器の禁止を含む、より厳格な銃規制法案の採択を議会に求めた。今後アメリカでは、殺傷能力の高い銃器は闇で購入するか、自宅で製造しなければ手に入らないものになるかもしれない。そして後者は今、実現可能な選択肢になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税がインフレと景気減速招く可能性、難しい決断=

ビジネス

中国製品への80%関税は「正しい」、市場開放すべき

ワールド

ロシアで対独戦勝記念式典、プーチン氏は連合国の貢献

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中