最新記事

技術革新

コロナ危機の今こそイノベーションの好機

Innovation in the Pandemic Age

2020年5月5日(火)11時00分
朱民(元IMF副専務理事)

ワクチンの開発こそが全世界を救う DADO RUVIC-REUTERS

<市場に任せていてはチャンスを逃す──AI・クラウド企業は医学に手を貸し新機軸を>

今度の新型コロナウイルス感染症は、第1次大戦末期の1918年から20年にかけて全世界で推定5000万人以上の死者を出したスペイン風邪に劣らぬ脅威だ。各国政府は国民に自宅待機を求め、移動を厳しく制限している。結果、世界経済は麻痺寸前となっている。しかし、封じ込めは危機の解決にならない。解決には技術革新が必要だ。

都市の封鎖を永遠に続けることはできないし、この致死的なウイルスが自然に消え去ることもないだろう。世界の国々は科学と技術、そして市場の力を活用し、より持続可能なソリューション(すなわち治癒をもたらす技術と感染予防のワクチン)の開発に全力を挙げるべきだ。そして各国政府は、この技術革新が特定企業の株主だけでなく、全ての人々を潤すことを保証しなければならない。

今回のウイルスは「新型」だが、コロナウイルス自体は以前から存在している。しかし今日までの医学的研究は、もっぱら資金不足ゆえに頓挫してきた。2016年には米テキサス州の科学者たちが、やはりコロナウイルスが病原体だったSARS(重症急性呼吸器症候群)予防に有望なワクチンを開発したが、その蔓延から10年以上たっていたため、臨床試験に必要な資金を確保できなかった。

当時の研究が実を結んでいたら、今回のウイルスがここまで拡散する前に、有効なワクチンの開発に着手できたかもしれない。しかし民間の製薬企業には、SARSの終息から10年以上もたった時点でワクチンに投資するインセンティブがなかった。そこに市場原理の限界があった。

創造性は常にサプライズ

世界中の科学者が新型コロナウイルスのワクチン開発に取り組む今も、市場に任せるだけではチャンスを逃しかねない。まずは製薬以外の分野の有力企業に、もっと積極的に関与してほしい。

とりわけ人工知能(AI)やクラウド・コンピューティングなどに強い企業は、その技術力と有能な人材を動員して、ワクチン開発を阻む障壁を取り除き、医学的研究の促進に手を貸すべきだ。

例えば、AIはウイルスのタンパク質構造に関する知見に基づいたシミュレーションを速やかに行えるし、膨大な量の研究論文の精査やデータの解析を支援することで研究の効率化に貢献できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、富裕層増税「問題ない」 共和党に政治的

ビジネス

再送-米貿易政策で景気リスク高まる、不確実性は当面

ワールド

米ロ首脳、補佐官通じ祝意交わす 対独戦勝記念で=ク

ビジネス

三井住友FG、インド大手銀行に2400億円出資 約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中