最新記事

日本人が知らない 自動運転の現在地

自動運転で都市はこんなに変わる 駐車場は48%削減──ボストンの挑戦

MAKE BOSTON MORE EQUITABLE

2019年2月14日(木)11時25分
クリス・カーター(ボストン市長室共同室長、交通政策担当)

ボストンは自律走行車を活用する独自のプログラムに乗り出した STEVE DUNWELL/GETTY IMAGES

<移動手段の格差解消を掲げて、自律走行車(AV)のシェアライドを取り入れた新交通システムの実現へと進む>

※2019年2月19日号(2月13日発売)は「日本人が知らない 自動運転の現在地」特集。シンガポール、ボストン、アトランタ......。世界に先駆けて「自律走行都市」化へと舵を切る各都市の挑戦をレポート。自家用車と駐車場を消滅させ、暮らしと経済を根本から変える技術の完成が迫っている。MaaSの現状、「全米1位」フォードの転身、アメリカの自動車ブランド・ランキングも。

◇ ◇ ◇

2015年冬、ボストンのマーティー・ウォルシュ市長は、箱形の部屋のように改造したトラックを20の地区に送り込んだ。市はそれまでの15年間、輸送に関する包括的な取り組み案を温めていた。トラック派遣の目的はこの問題への市民の反応を探り、意見を聞き取ることだった。

その頃、ちょうどボストンは記録的なブリザードに襲われていた。輸送ネットワークは麻痺し、狭い道路がさらに使えなくなり、通勤電車の多くが遅れ、運休した。そんな悪天候の下、私たちは市民に将来の輸送システムについて意見を聞いて回った。

寒さと雪にもかかわらず(むしろ、そのおかげでと言うべきか)、実に大勢の市民が私たちの目標とする2030年に向けてどのような計画を立てるべきかを話してくれた。圧倒的多数の市民が求めていたのは、実にシンプルな3点だった。道路をもっと安全に、公共交通機関をもっと信頼できるように、交通機関をもっと手軽に使えるように──の3つだ。

市民の意見は、ボストン独自の自律走行車(AV)のプログラム構想に役立った。市は3年前、この新しいテクノロジーを利用して前述の3つの目標を達成できないかと検討した。

市は世界経済フォーラムとボストン・コンサルティング・グループと協力して市民を対象に調査を行い、その回答を参考にしてAVシェアライドを取り入れた輸送モデルをつくり上げた。そこから分かったのは、より少ない台数の車でより多くの人を運ぶことはできるということ。ただし、そのために車は今までより長い距離を走る必要があり、それでいて節約できる時間はそれほど多くないということだった。

アクセスの平等を目指して

AV導入の最大の利点と思われるのは、駐車場を48%減らせるという試算だ。その跡地を使えばバスや自転車の専用レーンや歩道を増設できるし、公共スペースや住宅建設にも充てられる。ボストンにとっては、19世紀に埋め立てによってバックベイ地区が誕生して以来、最大規模の用地拡大となる。

そうなれば住宅所有のコストが下がり、洪水対策なども容易になる。そして最も重要なのは、ボストンがより「公平」な都市に生まれ変わる一助になることだ。公平の問題は、居住スペースの面積だけに限らない。アクセスのしやすさも重要な点になる。

ボストン市民の通勤時間は平均29分。しかしマタパン地区のように、勤労者の4分の1が1時間以上かけて通勤している所もある。この地区では住民の82%がアフリカ系で、世帯収入の中央値は市の平均より2万ドル以上低い。

【関連記事】本当のMaaSは先進国のフィンランドでもまだ実現できていない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中