幕が下りたら、ゴミになる。舞台芸術が抱える「大量廃棄」という闇

2026年3月16日(月)14時00分
柾木博行(本誌記者)

「地産地消」の舞台芸術

劇団野らぼう公演『人形と星』

劇団野らぼう公演『人形と星』。太陽光発電で照明の電力をまかなっている。写真撮影=伊東昌恒

サステナブルな舞台づくりへのアプローチは、地域に根差した小規模な劇団からも生まれている。長野県を拠点に活動する劇団野らぼうはその代表的な例であり、東京都調布市のせんがわ劇場演劇コンクールで優勝するなど、実力も折り紙つきだ。野らぼうの主宰者である前田斜めは、エネルギーと素材の「地産地消」に焦点を当てた、オルタナティブな舞台活動を行っている。

稽古場の屋根から生まれる電力を利用

野らぼうの最もユニークな取り組みの一つは、太陽光発電の電力で公演を行うというものだ。その背景には、「自分たちの身近にあるところから、使えるものがあるのなら使っていこう」というシンプルな考えがある。彼らは、稽古場の屋根にソーラーパネルを設置し、そこで得られた電力をポータブルバッテリーに貯め、実際の公演で使用している。

これは、エネルギー消費の大きな舞台照明や音響を、自分たちで生み出したクリーンなエネルギーで賄うという、まさに「ゼロカーボン」な舞台活動への挑戦である。こうした取り組みが評価され、2023年に長野県の「信州SDGsアワード」を受賞した。観客にとっても、自分たちが鑑賞している演劇が太陽の光という自然の恵みで上演されているという事実は、特別な体験となっているだろう。

「地元の木材」を使う理由

前田のサステナビリティへの意識は、電気だけでなく、舞台美術の「材料」にも向けられている。

舞台のセットを作る際、一般的な劇団や舞台美術会社は、安価な材料を求めてホームセンターへ向かうが、そこで売られている木材の多くは「外材」であり、どこから来たのかわからない材料を使うことになる。野らぼうの場合、森林資源の豊富な長野で活動しているのにもかかわらず、だ。

そこで前田は、地元の木材業者や林業関係者と連携し、近くにある木材を使うことを試みてきた。

「ホームセンターで買うこととどう違うのか、どう変わってくるのか。そういったところにアプローチできたらいいなと思っています」

その土地の気候や風土を背景にもつ素材を使うことで、演劇のリアリティや哲学に、より深い繋がりを持たせることができるという考えだ。

木造テント劇場という新たな試み

さらに前田は、イマジネーション・グリーンの大島と共同で「木製テント劇場」というプロジェクトを進めている。これは、木材を主材とした組み立て式の劇場を開発し、解体・移設・再構築を繰り返すことで、舞台美術の枠を超えた劇場の「再利用」を目指すサステナブルな取り組みである。

野らぼうの活動は、単なる環境配慮に留まらず、地域との繋がりや、演劇という表現そのものの在り方を問い直す、オルタナティブ(新しいやり方)な芸術活動と言えるだろう。全国の小劇団や地域密着型劇団にとって、独自のサステナブルな活動を始めるうえでのヒントになるかもしれない。

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