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寄木細工や加賀獅子、新たな文化体験へ...星野リゾート「界」が重視するCSV経営とは

2025年10月23日(木)16時00分
ニューズウィーク日本版編集部SDGs室 ブランドストーリー

実際、寄木細工関連商品の売上は月平均30〜40万円に上り、特にインバウンド客が大きく貢献している。2025年8月の全面リニューアル後はご当地楽として「寄木細工のずく引き体験」を新設し、職人が「難しい」と語る工程を宿泊者が体験可能にした。

工房を模した空間や隣接ショップと一体で、素材から完成品までの世界観を提供している。こうして「界 箱根」は伝統を未来へ橋渡ししつつ、文化を支える人と経済を育む持続可能な観光のモデルとなっている。

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「界 箱根」の「ご当地楽」ルーム

さらに、石川県・山代温泉にある「界 加賀」では、多くの宿泊者に対して、より深く石川県の伝統文化・伝統工芸を体験できる取り組みを開始した。その一つが、2023年4月に施設内に設立した「金継ぎ工房」だ。

「『界 加賀』では、九谷焼や山中塗といった伝統工芸の器で料理を提供していますが、日々使用していると劣化や破損は避けられません。それを廃棄せず、自分たちの手で器を守っていけるようにと、2019年から元蒔絵師のスタッフが『界 加賀』のスタッフに金継ぎの技術を広めました。天然漆にこだわった器の修復やワークショップの開催など、より本格的に金継ぎの活動に取り組んでいくため、工房を立ち上げたのです」と、「界 加賀」の総支配人を務める森下亜椰氏は話す。

同時に、宿泊者が金継ぎの一部の作業を体験できるプログラム「金継ぎいろは」もスタートした。プログラムは好評を博し、提供開始から1年3カ月で体験者数は3000人を突破したという。

加えて、2024年3月には国の登録有形文化財に登録されている紅殻色を特徴とした伝統建築棟に、「べんがらラウンジ」をオープン。九谷焼や山中塗など、石川県内の25名の職人や作家が手掛けた約100種類の作品から好みの器を選び、北陸のお酒とおつまみを楽しむことができる。

森下氏はオープンの背景について、「金継ぎ工房の反響を受けて、伝統文化や技術への興味・関心が高まっていることを強く感じ、しっかりと収益も確保しながら、強力かつ持続的に伝統文化の継承支援を推進できると判断しました。オープンから半年で800名弱の利用があり、実際に作品や伝統工芸を使っていただくことで、国内外の旅行者にその魅力を伝えています」と語る。

また「界 加賀」では、400年続く金沢市無形民俗文化財「加賀獅子」の継承を支援している。館内では2015年のリニューアル以来、スタッフが稽古を重ねた「加賀獅子舞」を毎晩披露してきた。

現在獅子頭を制作する工房は県内で「知田工房」1軒。その技と想いを次世代へ繋ぐため、2025年3月からは職人を訪ねる新ツアー「手業のひととき」を開始。参加者は工房で職人・知田清雲氏の話や制作風景に触れ、文化の重みを実感できる。こうした取り組みにより、界 加賀は地域との長年のリレーションを新たな体験へと昇華し、伝統文化を未来に伝えている。

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「界 加賀」の「ご当地楽」

星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」の成長について、小泉氏は「事業を通じて、全国23施設・年間45万人もの宿泊者に対して、地域の魅力を伝え、経済的な利益を地域に還元しているという点は、温泉旅館ブランドとしてのスケールを活かしているからこその結果だと捉えています」と話す。

グローバル化が進む中で、世界規模で文化的多様性が失われることが危惧されている。今後地域の文化・伝統を守るために、世界中の企業がCSVの考え方を持つことが必要とされるだろう。その中で、少子高齢化の進む日本において、「界」の取り組みは伝統工芸・文化の衰退に歯止めをかける、CSV経営の好事例となるのではないだろうか。

◇ ◇ ◇

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