最新記事
SDGs

「自分にできることを...」JICA職員・林 研吾さんが蟹江研究室で培ったSDGsの視点

2025年3月4日(火)13時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

──蟹江研究室での経験は現在のお仕事にどのように役立っていますか?

特に2つの点で非常に役立っています。一点目は、複合的な視点についてです。蟹江先生は、「物事を一つの視点だけで見るのではなく、複雑な問題を多角的に捉えることの重要性」をよく話されていました。SDGsの取り組みでは、一つの分野に良い影響を与える活動だったとしても、他の分野に悪影響を及ぼす可能性を考慮する必要があります。この複合的な視点を持つことが、現在のプロジェクト企画・実施において重要になっています。

二点目は、アプローチについてです。相乗効果(シナジー効果)を意識しながらプロジェクトを作り上げるアプローチを学んだことも大きな財産です。こうした視点や方法論を活用することは仕事をする上で役立っています。

──JICAに勤められた理由は?

JICAでは、相手国のために、現場意識を常に持ち、その国の人々に寄り添いながら、開発課題の解決に向け、相手国と一緒になって取り組み、国創りに携わることができます。OB訪問で何名かの職員の方にお会いしたところ、どの方も途上国への熱き想いを持って仕事に取り組んでいらっしゃいました。その姿に強い刺激を受け、「自分も途上国に対して熱き想いを持ったJICAの職員の方々と一緒に、仕事を通じて途上国に貢献したい」と思うようになり、JICAで働きたいと考えた大きな理由です。

また、JICAは、現場から国レベルの政府まで様々な関係者とともに開発課題の解決に向けて取り組みます。途上国の開発課題の解決は一筋縄にいかないからこそ、あらゆる視点を理解しながら取り組んでいくことが重要です。そのアプローチができる点もJICAに強く惹かれた点の一つです。

最後に、やはり内戦中のスリランカで幼少期に過ごしたことは仕事を選ぶ上で影響の大きかった私のバックグラウンドです。いつか途上国の開発に携わりたいという想いを持っており、父の憧れでもあったJICAで働きたいと考えてJICAで働くことを希望しました。

──特に心に残っている取り組みは?

いくつかありますが、特に印象深いのはモンゴルでの教育支援です。モンゴルでは約20年前から教育事業を展開しており、10年ほど前には「授業研究(レッスンスタディ)」のプロジェクトが終了しました。私はそのプロジェクト自体には携わっていませんが、その後の状況を把握するためにプロジェクト終了から10年後にフォローアップ調査を行いました。

その調査で明らかになったことは、プロジェクト終了後に、プロジェクトに携わった現地の方が自らNGOを立ち上げ、全国規模の授業研究大会を開催していたことです。そこでは現場の先生方が集まり、「授業研究をどのように進めるべきか」について意見交換をし、実際にどのように取り組んでいるかを発表しておりました。また、モンゴルの先生方は、「WALS」と呼ばれる世界授業研究学会で研究発表を行ったり、日本に自費で研修に来たりするなど、積極的に活動を続けていました。さらに、日本の大学と共同研究を進めるなど、プロジェクトの成果を次につなげる取り組みも進行していました。

特に印象に残ったのは、あるモンゴルの先生が「プロジェクトが終わった瞬間が、日本との新たな繋がりの第一歩だった」と語ったことです。支援が終わりではなく、その後の発展に向けて、日本との繋がりを大切にしている姿勢に感銘を受けました。このフォローアップ調査を通じて、そうした事実を今後の事業に繋がる成果として明らかにできたことともに、モンゴル側の日本とのつながりを大事にする姿勢を見て、日本・JICAの支援の意義を再認識しました。

また、現在、勤務しているパプアニューギニアでも印象に残っている事業があります。それは理数科の教科書開発です。パプアニューギニアは理数科の教科書が開発されるまで、国定教科書がありませんでした。加えて、パプアニューギニアは電化率が約20%となっており、道路もなかなか整備されていないという状況です。特に地方部では、学校に通うために山を越えていたり、水を汲むまでに2時間かかったりという地理的にもかなり厳しい状況です。

newsweekjp20250304051249-7b0e61c1d182199671e3a03c8608b6db0ba975df.jpg

パプアニューギニアの山間部での理数科の教科書開発の効果測定を行った学校での一枚

その中で、JICAの事業を通じて、理数科の教科書が開発され、パプアニューギニア全土で教科書が配布されています。地方部や山間部の学校に訪れた際、教科書が活用されている光景と、生徒が「授業でたくさんのことを学べて楽しい」と言って教科書を大事に使っている姿に支援のインパクトを感じました。

教科書を効果的に教員に使っていただくためには、教員が教科書の使い方を正しく理解する必要があり、現実としてはなかなか容易ではなく、大きな課題の一つです。一方で、教育省や現地の教員に加えて、世界銀行やユニセフ、Australian High Comission等と協議も重ねていきながら、課題解決に向けて取り組んでいます。このように、それぞれの組織の特徴や強みを生かしながら、あらゆる機関が一体となって課題解決を図っていくことも大きなやりがいとして強く感じております。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ市占領へ地上攻撃開始=アクシオス

ワールド

米国務長官、エルサレムの遺跡公園を訪問 イスラエル

ワールド

カナダ首相、アングロに本社移転要請 テック買収の条

ワールド

インド、米通商代表と16日にニューデリーで貿易交渉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中