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中高年の脳が蝕まれている...健康寿命を守る「4つのストレス対策」とは?【最新研究】

Stress and Dementia

2025年6月18日(水)13時30分
ジェニファー・グレアムイングランド、マーティン・スリウィンスキー(共にペンシルベニア州立大学教授)
食事

NEW AFRICA/SHUTTERSTOCK

<慢性ストレスは生活習慣の乱れを招き、認知機能を低下させかねない。脳の健康を守る賢い方法について>

アメリカ人が生涯に認知症になる確率は、これまで考えられていたよりもはるかに高いようだ。

今年発表された30年以上に及ぶ多数のアメリカ人を対象にした研究では、55〜95歳に認知症を発症する確率は平均42%だった。女性や黒人、遺伝的なリスクがある人は、この数値がさらに高まる。

人口の高齢化が進むなか、認知の低下をどう防ぐかが大きな課題になっている。この議論で見落とされがちなのは、健康寿命と認知症のリスクに慢性ストレスがどう影響を与えるか、だ。

【動画】認知症を防ぐ3つの方法 を見る


最近の複数の研究で、今のアメリカの中高年は過去の世代よりも日々の生活で頻繁にストレスを感じていることが分かった。その背景には経済・雇用不安や労働市場の変化がありそうだ。寿命が延びたため、長期にわたる老後の生活基盤を確保しにくくなり、高齢になっても働き続ける人が増えている。

日常的なストレスは誰でも経験するが、人によっては長期にわたる深刻なストレスを抱えることがある。健康状態の悪化と関連があるとみられるのは、この慢性ストレスだ。

私たちは最近発表したレビュー論文で、多数の先行研究から慢性ストレスが認知機能の低下の根底に潜む強力な要因になっていることを示した。

ストレスが高齢者の認知機能に無視できない影響を及ぼすことは、いくら強調しても足りない。ストレスに対する心理的な反応と生体反応、そして行動面の変化は相互に絡み合い増幅する。

小さな工夫で大きな変化

例えば1人暮らしは、高齢者には深刻なストレスをもたらしかねず、それによって健康的な生活習慣を維持することが困難になる。しかも独居生活では認知機能の衰えに周囲が気付いて支援を提供することが難しい。

強いストレスを感じると、睡眠の質が低下し、適度な運動や健康的な食生活など健康に良い習慣を続けられなくなることが多い。睡眠不足や活動量の低下が続くと、ストレスに対する耐性が弱まり、さらに生活習慣が乱れるという悪循環に陥りかねないのだ。

これまでに蓄積された膨大な研究で、アルツハイマー病などの認知症に関連した少なくとも14の要因が指摘されている。これらの要因の中には、糖尿病や鬱病など自分ではコントロールできないものもあるが、適度な運動や健康的な食習慣、他者との交流など改善が可能なものも多い。

認知症のリスクと関連があるこれら14の要因の全てと慢性ストレスが密接に結び付いていることはあまり知られていない。

私たちはペンシルベニア州立大学健康寿命研究所の教授で、健康心理学と健康神経心理学を専門としている。私たちの研究と先行研究から、慢性ストレスが脳の情報処理と生理機能、さらには気分に影響を及ぼし、健康的な生活習慣の維持が困難になることが明らかになった。

ストレスフルな出来事や困難な生活状況は自分の意思ではそう簡単には避けられないが、どこでどう生活し、働くかで日々のストレスの度合いは変わる。

低所得で教育レベルが低く、貧困地域に住んでいる人は多くのストレスを受ける上、老化に伴うさまざまな問題に対処するための支え──近隣のクリニックやヘルシーな食品へのアクセス、確実な移動手段、運動や人付き合いができる安全な場所など──を確保しにくい。

最近の研究で、こうした条件が健康長寿を保てるかどうかに決定的な影響を及ぼすことが分かってきた。

ストレスの影響は時がたつにつれて積み重なり、体を衰弱させるばかりか、物事をネガティブに捉えたり、人付き合いを避けたりするなどかたくなな行動様式をつくってしまう恐れがある。

社会全体での対策も必要

だが幸いにもストレスをため込まず、うまく解消して認知症を防ぐか進行を遅らせる方法はある。私たちができることをいくつか紹介しよう。

■健康な食生活、適度な運動、十分な睡眠など、健康寿命を延ばす生活習慣を守ること。これらは小さな変化であっても大きな恩恵をもたらす。

■心の健康を保ち、充実した日々を送ることを重視する。悩みがあれば誰かに話すなり、友人や家族に助けを求めよう。家に引きこもらず、積極的に出かけることも大事だ。

■あなたかあなたの家族が、医師に生活習慣の改善の必要性や認知機能の低下を指摘されたら、それに伴うストレスに対処できるよう支援なりアドバイスを求めること。

■あなたか家族が社会的な孤立に陥っているなら、ちょっとした交流で状況が変わると知ってほしい。テキストメッセージや短い電話の会話でもいい。人とのやりとりを1日1回増やすだけでも効果があることが研究で分かっている。カフェや病院の待合室などでたまたま出会った他人とちょっと話をするだけでも大いにメリットがある。

今年発表された研究は、あらゆる脳の病気(脳卒中、老年期鬱病、認知症など)の発症リスクに関わる要因の1つとしてストレスを挙げ、ストレスに対処することが脳の健康維持に非常に重要であると示唆している。

とはいえ自力でできることには限りがある。地域の治安を改善し交流や生涯学習の場を設けるなど、地域や職場レベルでの対策も必要だろう。

アルツハイマー病の治療研究は精力的に進められており、その成果には大きな期待が寄せられているが、今のところ決定的な治療法はない。

だが認知症予防の一環としてストレスを減らし、ストレスに対処する方法を広めていけば、その恩恵は広範囲に及ぶ。何百万もの人々の発症を遅らせ、生活の質を改善できるだろう。

The Conversation

Jennifer E. Graham-Engeland, Professor of Biobehavioral Health, Penn State and Martin J. Sliwinski, Professor of Human Development and Family Studies, Penn State

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


【参考文献】
Michael Fang, Jiaqi Hu, Jordan Weiss, David S. Knopman, Marilyn Albert, B. Gwen Windham, Keenan A. Walker, A. Richey Sharrett, Rebecca F. Gottesman, Pamela L. Lutsey, Thomas Mosley, Elizabeth Selvin & Josef Coresh, Lifetime risk and projected burden of dementia, Nature Medicine, volume 31, pages772-776 (2025)
Cognitive Health and Older Adults,The National Institute on Aging (NIA) , June 11, 2024
Almeida, D. M., Charles, S. T., Mogle, J., Drewelies, J., Aldwin, C. M., Spiro, A. III, & Gerstorf, D. (2020). Charting adult development through (historically changing) daily stress processes. American Psychologist, 75(4), 511-524.
Joshua Smyth, Matthew Zawadzki, William Gerin, Stress and Disease: A Structural and Functional Analysis, 13 March 2013

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