最新記事
医療

「コロナ禍のマスク生活で免疫力が低下」はウソ 小児科の発熱外来が今、大混雑している根本原因とは

2023年7月27日(木)18時46分
森戸 やすみ(小児科専門医) *PRESIDENT Onlineからの転載

医療機関や高齢者施設ではマスクの着用を

実際に、新型コロナが第5類になってからは、病院やクリニックにおいてさえマスクをしない人が増えました。うちのクリニックにも、お子さん(2歳以上)にひどい咳や鼻水、高熱があってもマスクをさせず、ご自身もマスクをせずに受診される保護者の方が少なからずいらっしゃいます。

 
 
 
 

確かにマスク着用は個人の判断が基本となりましたし、無理強いすることはできません。ただ、周囲に感染を広げないためにも、ご自身を守るためにも医療機関や高齢者施設、混雑したバスや電車などでは着用したほうがいいのです。日本医師会も厚生労働省も、それらの場所でのマスクの着用を推奨しています。

先日、マスクをせずに受診される保護者の方にそうご説明したところ、「でも保育園でマスクを取らされてしまうんです」とのことでした。たとえ保育園の中ではマスクを外していても、さまざまな感染症の方が来院される医療機関ではマスクをしたほうがいいでしょう。マスクを着ける目的は、新型コロナを予防することだけではありません。RSウイルス、溶連菌、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、インフルエンザなどのさまざまな感染症を予防するためです。

日本医師会のマスク着用を呼びかけるポスター

日本医師会WEBサイトより

基本の感染予防策をしっかり行うのが最善の方法

こうして現在の感染症の流行状況を考えると、この3年間に私たちが行っていた感染予防対策は効果的だったことがよくわかります。飛沫感染や接触感染を起こすさまざまな感染症は、本気で対策すればかなり予防できるのです。やはり三密を避ける、手を洗う、マスクをすることは有効だったのです。

そして、感染症にどんどん感染して抗体を高めようとする必要はありません。大勢の人が感染症にかかれば、重症化したり亡くなったりする子供が出てしまいます。何らかの感染症にかかっても必ず抗体価が上がるとは限りません。例え何らかのウイルスに対する抗体価が上がったとしても、重症化したり、合併症が起こったりして苦しんだり、後遺症が残ったり、命を失ったりしたら本末転倒です。ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザb型菌)に感染して細菌性髄膜炎になり、重篤な後遺症が残った場合に「それでも抗体がついたからよかった」と思う人はいないでしょう。しかも、新型コロナのように何回でも感染するウイルス、細菌だってあるのです。

今、小さいお子さんのいるご両親は、さまざまな感染症が流行していて、小児科が混み合っていて、とても不安だと思います。ワクチンで防ぐことのできる感染症は、ワクチンで予防しましょう。そのうえでコロナ禍によって習慣化した基本の感染予防対策をしっかり行うのが最善の方法だと思います。

森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 8
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中