最新記事

宗教

「ねえ、ラブホいかへん?」 家出少女に声をかけられた牧師は彼女をどうしたか

2023年2月3日(金)12時00分
沼田和也(牧師) *PRESIDENT Onlineからの転載

助ける方法を必死に考えて

「みんな」同じことをしているが、おたがい誰のことも心配しないらしい「みんな」。わたしの言葉に応じる彼女は、わたしのことをいちおう信用してくれたのかもしれないが、潜在的にはわたしへの警戒を怠っていないかもしれない。それと同じように、彼女は自分と同じ境遇の友人たちを、友人ではあるがしょせんは他人と捉えているようだった。友人たちも客の男たちも、わたしも同じ。いつ裏切られるか分からない。最後に頼れるのは自分だけ。そういう「みんな」。自分以外の全員、当然わたしも含んだ「みんな」。

わたしはそっけなく話すふりをしながら、頭はフル回転させていた――落ち着け。彼女を助ける方法を考えろ。考えあぐねた結果、わたしは話が通じそうな同僚に電話をかけてみることにした。もちろん彼女に許可はとった。

「そいつなら君のこと、なんとかしてくれるかもしれへんから」
「うん、ありがとう」

彼女は素直にうなずいた。

おだやかで痛ましい寝顔

同僚はわたしからの急な電話に、あわてて着替えでもしているのか。それほど遠くはないはずなのだが、姿を現すまでの時間は長かった。待っているうちに、彼女は膝枕のうえで寝息を立て始めた。日ごろの疲れがたまっているのだろう。おだやかな寝顔がむしろ痛ましい。まだ中学生くらいの子ども。街中を歩いている学生たちと、なにも変わらない寝顔。

同僚を待ち続ける時間はねっとりと長く、苦痛であった。やがて遠方から同僚が歩いてくるのが見えたとき、粘っこく張りついた空気は霧消し、わたしは安堵(あんど)した。ところが彼のほうはといえば、わたしに気づくと驚いたように駆けよってきた。

「これはどういうことです」

どうやらわたしの膝枕状態を誤解してしまったらしい。わたしは誤解を解くよりは事情を説明したほうが早いだろうと、彼にこれまでの経緯を話した。彼女も目を覚まして、彼を見上げた。

「今、この子を引き受けて責任とれます?」

残念なことに、話はわたしの思いもよらぬ方向へ進んでいった。彼は彼女にではなく、わたしに向かって説得を始めたのである。

「難しいですよ、やっぱり。たしかに、この子は厳しい立場だと思います。でも今、この子を引き受けて責任とれます? なにかあったらどうするんです?」

彼女の顔がこわばりはじめた。彼女は立ち上がり、わたしと彼との論争を、こぶしを握って聴いていた。

わたしは彼と論争しながら、ちらちら彼女のほうを見る。

「いや、だいじょうぶだから。必ずなんとかするからね」

だが、もうだめだった。彼女とわたしとのあいだには、膝枕のときには考えられなかった、なにかとてつもないものが立ちはだかっていた。彼女はわたしの顔から眼をそらさず、少しずつ、少しずつ後ずさりし始めた。まるで野良猫が人間を警戒するように、その野生の鋭い眼をそらさず、少しずつ、少しずつ。どうすればいいのか。彼女を引き止められないか。同僚を納得させることはできないか。

「この子を今晩だけでもいいから、とりあえず泊めてくれませんか。それで明日以降、福祉につないでもらえたら。それだけでもいいんですけど。ほんとうはわたしがそうしたいんだけど、あしたは幼稚園の仕事もあるから、バスには乗らないといけないし」
「無理ですよ。それにもう夜です。未成年者を親にも警察にも言わず、勝手に教会に泊めることはできません。わたしもあなたも男性ですよ? そんなことが露見したら、教会の社会的信用にかかわります。彼女に親の連絡先を尋ねてください」
「いや、親には連絡できない。彼女は親には会いたくないと言っている。警察のことも警戒している」
「やっぱり警察に連れて行きましょうよ。警察に保護してもらうしかない」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EU高官、スタグフレーション警告 混乱長期化で成長

ワールド

イランの革命防衛隊、ホルムズ海峡閉鎖と表明 「厳し

ワールド

ロシア、2026年の成長率予想を下方修正へ 現在1

ビジネス

米国株式市場・序盤=続落、米のイラン攻撃延期も市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    日本経済にとって、円高/円安はどちらが「お得」な…
  • 6
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 7
    ニュースでよく聞く「東京外国為替市場」は、実際は…
  • 8
    アメリカのストーカー対策、日本との違いを考える
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    実は「ミュージカルはポリティカル」?...社会の闇を…
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中