最新記事

スポーツ

「運動部の部活は人格形成に必ず役立つ」はウソ 「運動選手ほど規則を軽視する」衝撃の調査も

2023年1月9日(月)14時25分
大峰光博(名桜大学准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

スポーツは「えげつない行為」が求められる

スポーツの本質は、誰(どのチーム)が優越しているかを決定する試みであり、勝利の追求が求められます。対戦相手(チーム)が敗北することによって伴う痛みや苦しみをおもんぱかっていては勝てません。

川谷は、アスリートとして純粋に勝利を追求するためには、普通の人間としては「えげつない」行為を遂行する能力・技能が必要になると主張しました。同感です。Strandらによる調査は、川谷の主張を補強する結果になっています。

私はこれまで、中学・高校ではバスケットボールに、大学ではトライアスロンに取り組んできました。バスケットボールは五流選手、トライアスロンは日本選手権に出場したものの、タイムオーバーで失格となった三流選手です。そんなトップアスリートとは言えないレベルにおいても、運動部活動においてアスリートたちの「えげつない」行為をこれまで見聞きしてきました。私自身も勝利の追求のために、故意のルール違反を行った経験もあります。

スポーツで飯を食べ、スポーツがアイデンティティーの中心に位置するトップアスリートたちにとっては、闘いの中での「えげつない」行為は日常茶飯事です。元サッカー日本代表の本田圭佑は先日、W杯開幕直後に「見えないところで汚いことをすることもサッカーの一部やった」とツイッターで述べました。日々の練習においても、健康の維持・増進という日常の倫理とかけ離れた「えげつない」鍛錬が続けられています。そうでなければ、トップのレベルで生き残っていけないからです。

そういう意味では、部活動も含め、スポーツへの過度の傾注は、日常生活では許容されない「えげつなさ」を自身の中に取り込んでしまうとも言えるのではないでしょうか。

未成年飲酒や喫煙といった問題は部活動内で繰り返されている

運動部活動が社会性において必ずプラスに働くのであれば、中学生の4割が運動部活動に加入していない状況は極めて由々しき事態です。運動部活動に加入していない学生の社会性が、危機的な状況に陥っている可能性も出てきます。

しかしながら、運動部活動を行っていても社会性に乏しい学生もいる一方で、サークルに加入したり、帰宅部という運動部活動に加入していない学生が社会性に優れているケースもあります。それは、飲酒、喫煙、薬物使用、いじめ、暴力といった事件が運動部活動に加入している学生によって繰り返され、また、運動部活動に長期にわたり加入していたトップアスリートが他者を尊重せず、公正さを尊ぶ態度が培われていないスキャンダル事例からも明らかです。

スポーツは本来「気晴らし」である

そもそも、生徒の自主的、自発的な参加により行われる運動部活動は、生徒がどのような目的で参加しようとも自由です。私はこれまで運動部活動を「憧れの選手のようにプレーしたい」「周囲の人たちに認められたい」「達成感を味わいたい」「勝ちたい」といった動機で参加してきました。自身の社会性を高めることを目的に参加してはいませんでした。周囲の部員も同様でした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独製造業PMI、4月改定48.4 22年8月以来の

ビジネス

仏ラクタリスのフォンテラ資産買収計画、豪州が非公式

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで29人負傷、ロシア軍が

ビジネス

シェル、第1四半期は28%減益 予想は上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中