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「運動部の部活は人格形成に必ず役立つ」はウソ 「運動選手ほど規則を軽視する」衝撃の調査も

現在、大学のトライアスロン部の監督を担っていますが、部員に対して社会性を養うことを目的に指導は行っていません。部員も社会性を高めることを目的に入部はしませんし、水泳3.8km、自転車180km、ランニング42.195kmという非日常を実践することが社会性につながることも思えません。また、トライアスリートに限定されないエンデュランスアスリート(マラソンランナーやサイクリストなど)は、長時間の練習や試合に伴う弊害も研究で指摘されており、私の身近にも仕事や家庭を顧みないで練習や試合に励んでいたアスリートもいました。

そもそもスポーツの語源はラテン語の"deportare"であり、気晴らしを意味します。日々の労働や日常の規範からの逸脱が、気晴らしになり得ます。スポーツそのものが労働や日常の規範の連続であるならば、気晴らしにはなりません。気晴らしは日常の規範にとって危うさを持っています。

スポーツでは必ずしも社会性は育まれない

私は「このままではスポーツが駄目になってしまう!」「スポーツの危機だ!」と叫びたいわけではありません。「えげつない」行為が要求されるスポーツは、それほど上等なものでありません。一方で、日常の倫理とは異なる倫理を求められることが魅力の一つであるとも考えています。そのようなスポーツを用いる運動部活動において、日常の倫理を重んじる社会性が育まれないことは、なんら不思議なことではありません。

指導者が運動部活動において部員の社会性を養うことを目標とするのであれば、以上のようなスポーツの側面を認識する必要があり、ひたすらに高いレベルを目指すことやスポーツをただ行わせるだけでは、その目標は到底達成されない点を肝に銘じておく必要があります。

大峰光博(おおみね・みつはる)

名桜大学准教授
1981年、京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。2017年より現職。専門はスポーツ哲学。著書に『これからのスポーツの話をしよう:スポーツ哲学のニューフロンティア』(晃洋書房)、『スポーツにおける逸脱とは何か:スポーツ倫理と日常倫理のジレンマ』(晃洋書房)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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