最新記事

ライフスタイル

伊サルデーニャ島に100歳人が多い理由 島の羊飼いが70年続けている習慣、食生活とは?

2022年12月14日(水)17時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

トニーノの家に戻ると、私たちは何杯かのワインとともに、一〇個あまりのクッキーを流し込んだ。一時間もすわっていると、トニーノはもう我慢できなくなって椅子から立ち上がった。彼は七〇年このかた、毎日ほどんど欠かさず、ウォーキングに出るか、ロバに乗って山頂にある一家の牧草地まで八キロの道のりを登り、羊の面倒を見るのを日課にしている。だがこの日は彼が私たちに付き合ってくれたのだから、私たちが車で送ることにした。

道は急カーブの連続で、何百メートルも森のなかをくねりながら登っていく。ガードレールなどはないから、転落したら即死だ。アメリカならこのような道路は法的に許されないし、少なくとも「危険」の標識が義務づけられる。だがここでは、そのようなものがないまま、日常的に使われている。

頂上の平らな場所は古い石垣で囲まれ、二〇〇頭ほどの羊が、草を根こそぎ食いちぎっている。

三頭の羊が押し合いへし合いしている間に、石垣の石が外側に落ちてしまった。トニーノはさしてあわてもせず、重い石をなんなく持ち上げて、もとの位置に戻した。次に断層面が露出している岩にもたれかかり、むかしと変わらない監視のポーズを取り、眼下の緑とのコントラストのなかで、凛りんと立ち尽くした。

私は、思わず尋ねた。

「退屈することはありませんか?」

言ったとたんに、愚問だと反省した。彼は、私を指差しながら大声で言った。

「わしはここで過ごす毎日に、とっても満足している」

彼の指先には、牛の血が乾いてこびりついていた。しばらく間を置いて、彼は続けた。

「わしはこの動物たちが好きだし、だからその面倒を見るのも好きだ。今朝、牛を葬ったが、本当はわしには牛はそれほど必要じゃない。肉の半分は息子のところに分けるし、あとの半分もほとんど隣近所にあげてしまう。だが動物たちの面倒を見ないようになったら、何もやることがなくて、家でボンヤリしているだけになる。人生の目的が、消えちゃうんだ。周囲の人、とくに子どもたちが愛いとしい。子どもたちが訪ねてきて、何かしら私が作ったものを見つける、そこに生き甲斐があるのだよ」

bluezones.jpg

The Blue Zones 2nd Edition(ブルーゾーン セカンドエディション)──世界の100歳人(センテナリアン)に学ぶ健康と長寿9つのルール
 ダン・ビュイトナー 著
 荒川雅志 訳・監修
 仙名 紀 訳
 祥伝社

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中