最新記事

健康

「もう年だから」──自虐だけでも老ける「日常的エイジズム」とは?

Not a Joking Matter

2022年7月21日(木)14時45分
エミリー・レイバーウォーレン
メンタルヘルス

老いこそ成熟の極みと心得れば、年を重ねてこそ遊びも楽し DEAGREEZ/ISTOCK

<自虐的な考え方や周囲の過剰な気配りが老化を促す「日常的エイジズム」と「マイクロアグレッション」。メンタル面だけでなく、内臓も蝕まれるというオクラホマ大学の話題の研究>

いつからだろう、まだ10代の息子が私を年寄り扱いし始めたのは。悪気がないのは分かっていても、ジュリー・オバー・アレンは傷ついた。でも、今は分かる。息子の言葉は、「自分自身が自分の老化について飛ばしていた自虐的なジョーク」から来たのだと。

アレンは米オクラホマ大学の公衆衛生学者で、「健康に老いる」にはどうすればいいかを一貫して研究してきた。当然、自分はエイジズム(年齢に対する偏見や差別)とは無縁だと信じていた。でも実際は、どうやら自分で自分を老人扱いしていたらしい。

そういう「日常的エイジズム」が高齢者の健康に与える影響を、彼女は調べてみた。すると、普段から「老人扱い」の言葉や行為にさらされる機会の多い高齢者ほど、高血圧や糖尿病のような慢性疾患を抱え、あるいは鬱状態に陥っている確率が高いことが分かったという。

高齢者には強みもある

先頃アレンが米国医師会報のオンライン版に投稿した論文によると、彼女が調べた50~80歳のアメリカ人2035人の約93%が、加齢に関する不快なメッセージを日常的に受け取っていた。「もう年だから」の一言やアンチエイジング薬の宣伝文、見知らぬ人から妙に大きな声で話し掛けられる経験などだ。

心理学では「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」と呼ばれるもので、そういう言動も積み重なれば相手を傷つけることになるという。黒人や女性、LGBTQ+(全ての性的少数者)を対象にした調査でも、マイクロアグレッションが鬱状態や不安、仕事に対する不満、自己肯定感の低さなどと関連していることが報告されている。

年齢を理由に就職や臓器移植を断られるといった典型的な年齢差別の事例はよく知られている。しかし小さな差別の積み重ねが深刻な影響を及ぼすことを全国レベルの大規模調査で確かめたのは、アレンらの研究が初めてだ。

「小さくてもインパクトは大きい。そういうものは見落とされがちだ」と、コロンビア大学のデラルド・ウィング・スー教授(心理学、教育学)は指摘する。人種差別にも同じような傾向があるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中