最新記事

日本社会

「汚部屋そだちの東大生」女性作者の壮絶半生 母親の影響を抜け出すまでの日々

2021年4月17日(土)12時12分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

そしてついに家を借り独立

「親しくしていたグループ内に世話焼きの人がいて『家を出たら?』と言ってくれました。でも私は『そんな、まさか~』みたいな感じでした」

その人は部屋が汚部屋であることよりも、母親に危機感を持ったようだ。

「お金はすべて母親に渡している」

という話を聞いて、

「それは、本当に家を出るしかないよ」

とシリアスに言った。そして何人かの友人がハミ山さんと一緒に賃貸物件の内見に付き合ってくれた。

「そのときはじめて

『アパートってこれくらいの値段で借りられるんだ!!』

って知りました。それで、そのままの勢いで家を借りちゃいました」

社会人2年目の冬だった。

借りた家に、母親にバレないように少しずつ荷物を運ぶことにした。

父の形見や、生活に必要な最低限のものをトランクにつめ、都バスに乗って新居に移動させた。運び終えると、何食わぬ顔で家に帰った。

そして、ある日スッと引っ越した。

「短い別れの言葉を書いた置き手紙を洗面台の上に置いておきました。それは母に最後に伝えたいことがあるからではなく、置き手紙をしないと失踪人として警察に通報されてしまうかもしれないと思ったからです。そうなってしまっては警察にも悪いし、おおごとになってしまいそうだったので」

そしてハミ山さんはやっと念願だった1人暮らしをはじめた。

「家を出てすぐの頃は、母の夢ばかり見ました。とても怖かったです。外を歩いているときに、母と姿形が似た人を見ると、心臓がドドドドって高鳴りました。

そして私もなかなか部屋を片付けられませんでした。すぐに散らかってしまいます。

『私も、片付けができないんだな......』

って気がつきました。

家を出たら、自由に伸び伸びと暮らせると思っていたけど、そんなに簡単なものではないんだなと思いました」

だが普通の家に住むようになって、今まではできなかったこと、やりにくかったこともできるようになった。

「机を手に入れました。『机があるとこんなに楽にお絵かきができるんだ!!』って思って楽しくなって漫画を描き始めました」

そのときに描いた漫画が2015年に単行本化した『心の穴太郎』だった。身体に穴の空いたキャラクターが活躍する、少し寂しさのあるギャグ4コマ漫画だ。

結果的には、1人暮らしの期間はあまり長くは続かなかった。

結婚相手の実家との交流で受けたカルチャーショック

ハミ山さんは数年前に結婚して、現在は2人のお子さんのお母さんになっている。

「結婚後は夫の家族と交流するようになりました。それで、普通の家ではどのように生活が送られているのかをはじめて見ました。カルチャーショックが大きかったです」

例えば、

「トイレでは専用のスリッパを履く」

という行為だけでもハミ山さんには驚きだった。きちんと、不浄の空間と、清浄な空間を分けている。

土足のまま家に上がっていた、ハミ山さんの実家とは、大きく違った。

「よく自分の常識のなさに悩みます。少しずつ覚えていこうと思うのですが、きりがないんですよね。マニュアル本があるわけじゃないですし」

子育てをするうえで、自分にも気をつけている。

「上の子もまだ2歳なので、親子の対立にはなっていません。ただ食べ物を残したりすると

『せっかく作ったのに......』

と言いそうになりますが、母親がチョコレートケーキを捨てた姿を思い出して思いとどまります。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国債の売却を日米交渉の手段とすることは考えていな

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中