最新記事

日本社会

「汚部屋そだちの東大生」女性作者の壮絶半生 母親の影響を抜け出すまでの日々

2021年4月17日(土)12時12分
村田 らむ(ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター) *東洋経済オンラインからの転載

いつも無自覚のうちに母のようなことを言ってしまうのではないか? という恐怖はあります。虐待を受けた人が『負の連鎖をつなげるのがこわいから子どもを作らない』と言っているのを聞いたことがありますが、気持ちは本当によくわかります。

ただ『気をつけなければならない』ということが自覚できているうちは大丈夫なのかもしれない、とも思っています」

会社で働きながら、子育てもする、忙しい日々をすごしながら昨年『汚部屋そだちの東大生』の連載をはじめた。

「汚部屋に住んでいた時代の話」を描いた理由

なぜ今になって「汚部屋に住んでいた時代の話」を描こうと思ったのだろうか?

books20210416.png「毒親モノの漫画を読むと『性根の曲がったお母さんが主人公をいじめる、暴力を振るう』みたいな極端な話が多いように感じました。でも私の家はそういう感じではなかったです。

『本当に優しい人が真綿で首を絞めるように何年も何十年も苦しめてくる虐待があるんだよ』

というのを伝えたかったんです。

見た目がボロボロだったり、怪我してたりしたら、周りの人に気づいてもらえると思います。でもそうじゃなく、普通に生活しているように見えている人の中にも、実は虐待の被害者はいるんですよ。

そういう繊細な状況は、ストーリーをつけて漫画にしたほうが伝えやすいのではないか? と思いました。

執筆は、自らの半生を客観的に振り返りながらの作業になりました。描きながら気づくこともたくさんありました。母親に関しても『このとき、母はこんな気分だったんだろうな』とか想像しながら描きました」

作品はLINEマンガでも掲載されていたため、作品についたたくさんのコメントを読むことができた。その中には

「漫画を読んで、自分の家が汚部屋だと気づきました」

「自分の家もハミ山さんの家と同じような環境なのですが、家から抜け出ることはできず、今は無職です」

など、切実なものもあった。

また、

「『会社に娘は出社していますか? 取り次いでください』

という不自然な電話がかかってきたが、この漫画を読んでいたので取り次ぎませんでした」

というコメントもあった。

ハミ山さんは、ひょっとしたら、漫画で誰かを助けられたのかもしれないと思った。

「汚部屋やゴミ屋敷の問題って誰が悪いというわけでもないと思うんです。メディアでは、汚部屋の住人を悪者にしてしまう場合もありますけど、ただ責めるのではなく、救っていくことのほうが大事だと思います」

『汚部屋そだちの東大生』が話題になったあと、新たな仕事の依頼も来ているという。

「現在は新たにストーリー漫画の連載の準備をしています。これからも新しい作品をお届けできるよう頑張りたいです」

とハミ山さんはとても前向きに話を締めくくった。

壮絶な半自伝的作品を描きあげたハミ山さんが、今後どのような漫画を描くのか、楽しみに待ちたいと思った。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国債の売却を日米交渉の手段とすることは考えていな

ワールド

OPECプラス、7月以降も増産継続へ 自主減産解除

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中