最新記事

プロダクツ

Apple Watchは「築くべくして築かれた」ブランド(ITジャーナリスト林信行と振り返る:前編)

2020年7月8日(水)11時30分
林 信行 ※Pen Onlineより転載

スマートウォッチを、ファッションアイコンに押し上げた戦略。

pen202006150619114903.jpg

デ・アンツァカレッジの駐車場につくられた巨大展示ホール。その後、世界3店舗で展開されたApple Watch Storeや現在のApple直営店でも使われているApple Watch展示用什器も、この時、既に完成していた(ひきだしに各種バンドをしまえるなどApple Watch用の改造が加えられている)。

発表会に招かれた、ファッション界の重鎮たち。

これまでテクノロジー、IT系企業の新製品発表会に招待されるメディアといえば、デジタル系メディアや経済系のメディアが大半だった。しかし、その会場には一般誌やカルチャー誌、そしてファッション系メディアが多く招待され、なかにはファッションモデルの姿もちらほら。日本からも藤原ヒロシさんが招待されるなど、そのメンバーと華やかな雰囲気は、大規模なファッションイベントのようであった。

さらに、続く10月にはパリにあった高級セレクトショップ「コレット」で1日限りの展示会を開催。なんとそこには、ファッションデザイナーの故カール・ラガーフェルドやUS版VOGUEの名物編集長、アナ・ウィンターも出席と、ファッション界を代表する大御所ふたりが来場し大きな話題となった。

<参考記事>ITジャーナリスト・林信行とAppleのノートパソコン史を振り返る。

pen202006150619114904.jpg

メトロポリタン美術館では「MET GALA」と同時に、Appleとコンデナスト社とが主催したファッション系の展覧会「MANUS x MACHINA: Fashion in an age of Technology」が開幕。新しい素材や製造方法の誕生が、ファッションの世界にどのような新しいクリエイションを生み出してきたかを振り返り、讃える展覧会となっていた。

テクノロジーの枠組みを飛び出した、広告戦略。

三者の蜜月関係はそれだけに留まらない。Appleは、ウィンターの主催により毎年ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催される「MET GALA(メットガラ)2016」のスポンサーに就任。名誉会長を努めたカール・ラガーフェルドの腕には、ゴールドリングブレスレットのApple Watchが光り輝いていた。なお、このイベントの司会を"歌姫"テイラー・スウィフトらとともに務めていたのが、当時のAppleのCDO(最高デザイン責任者)であり、Apple Watchのデザイン、そしてファッション界への進出を牽引したジョナサン・アイブであった。

Apple Watchのリリース時には、もうひとつの噂があった。Apple Watchをデザインした世界的プロダクトデザイナー、マーク・ニューソンが、そのためにAppleへ入社したというニュースが世界を駆け巡ったのだ。

しかし、それはまったくの誤報であり、単にジョナサン・アイブとの強いパートナーシップが、そうした誤解を生んだのではないかとみられている。

pen202006150619114905.jpg

15年秋のiPhone発表会では、Apple Watchのブランドコラボモデルをエルメスおよびナイキとつくることが発表された。両社とのコラボモデルは、その後も1年に1度、Apple Watch新作発表時の楽しみのひとつになっている。現在では両社によるバンドのみの単体発売も行っているが、コラボモデルには通常のApple Watchでは表示されない特別な盤面が用意され、差別化されている。

名だたるブランドとのコラボレーションが話題に。

さて、そうしたファッション業界へのアプローチに加え、Apple Watchが単なるガジェットではなく、ファッションアイテムでもあることを広く印象づけたのは、ファッションブランド同様に春夏と秋冬のシーズンごとにリリースされる付け替え可能なストラップの存在だ。そしてなにより、名だたるファッションブランドとのコラボレーションを行ったことこそ、最大の要因だろう。

初代モデル発売から半年後の15年秋には、世界を代表するハイブランド、エルメスとのコラボモデルを発表。エルメスのアイコンである二重巻きのレザーストラップ「ドゥブルトゥール」が採用されたエレガントなモデルは大きな話題となり、日本でも大ヒットとなったことは記憶に新しい。

pen202006150619114906.jpg

Appleがホームページで公式に認めているコラボはエルメスとナイキの2社のみだが、これに加えて各国のApple Watchチーム主導で開発され、Apple Watch Storeやファッションデザイナーの店で限定販売されていた半公式コラボモデルのバンドもある。日本では本物のドライフラワーでつくられた上の写真のアンリアレイジのモデルに加え、サカイとのコラボモデルもつくられた。他に、米国ではコーチなどともコラボモデルをつくっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米韓通商協議に「有意義な進展」、APEC首脳会議前

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 中国「混乱の元凶」望

ワールド

ロシアとサウジ、OPECプラス協調「双方の利益」 

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中