ホアキン&ペドロがコロナ禍で狂った町で激突――不快なのにクセになる、アリ・アスターの風刺劇『エディントンへようこそ』
COVID Fever Dreams
終盤20分の笑劇は必見
エディントンの町にコロナは蔓延しないが、別の病気は着々と広がっていく。
ジョーの義母ドーン(ディードル・オコンネル)はSNSの投稿を根拠にコロナ絡みの陰謀論をまき散らす。妻のルイーズ(エマ・ストーン)はコロナの混乱で心の病が急激に悪化し、カルト集団の教祖(オースティン・バトラー)に取り込まれる。
アスター作品の登場人物は陰謀論めいた不安に悩まされ、やがて不安が妄想でなかったことを思い知る。だが『エディントン』の人々は真相を知るだけでなく自分で陰謀をめぐらし、自分の思い込みに合わせて現実をつくり替える。
保安官のジョーは世界が自分に対して敵意を燃やし、自由を奪おうとしていると不満を募らせる。一方、市長のテッドは州政府の禁止事項を拡大解釈し、支持者とバーで酒を飲むのは「必要不可欠な業務」だとうそぶく。
そんな市長に保安官は猛反発。同じ土俵で憎い敵を倒そうと市長選に出馬し、選挙戦に部下を駆り出す(これも立派な裏工作、市長がやっているのと同じ職権乱用だ)。
融通の利かない住民は、自分のマスクが鼻からずり落ちた状態で他人にマスクをしろと説教をする。「ウイルスは紙の上で5日生存する」などと真偽の怪しい情報を広めつつ、誤情報を批判する。世界を転覆させるのに外部の力は要らない。彼らは自分の手で世界を転覆させているのだ。





