最新記事
災害

ハリケーン「カトリーナ」から20年――災害を知らない子どもたちが描く未来【note限定公開記事】

Hope on the Wall

2025年9月21日(日)08時05分
ジャンネ・ボールデン(ライター)
ハリケーン・カトリーナから20年、ニューオーリンズの若者たちが描いた壁画。被災の記憶と未来への希望を表現している

PARIS PORTER

<米南部を襲った巨大ハリケーン「カトリーナ」の壊滅的被害から20年。ニューオーリンズは次世代に夢をつなぎ、力強くよみがえろうとしている>


▼目次
1.未来へ託す「カトリーナ」のレガシー
2.世代をつなぐ声とアート
3.人々が暮らし続けられるために
4.私たちはこの場所を知っている

1.未来へ託す「カトリーナ」のレガシー

街路の下の地層のように、何層にも重なった人々の記憶の上に築かれてきた都市――人々の暮らしに息づくリズムと伝統、そして苦難を吹き飛ばすパワーを糧に、独自の文化が力強く勃興する都市。

ここニューオーリンズでは、ハリケーン「カトリーナ」襲来20周年は、歴史の一里塚(いちりづか)というだけでなく、深い内省の機会ともなる。

この街に拠点を置く著名な画家で、スタジオ・ビーの創設者でもあるビーマイクことブランダン・オダマスはこの内省の機会を若い世代と分かち合おうと思い立った。

カトリーナが猛威を振るった時にはまだ生まれていなかった若者たち。彼ら「災害を知らない子供たち」の声を聞きたいと思ったのだ。

そこでスタジオ・ビーで毎年開催している若手アーティスト育成プログラム「エターナル・シーズ(永遠の種)」で、この夏はカトリーナをテーマに据えることにした。

プログラムに参加した研修生は全員、カトリーナがニューオーリンズを直撃した2005年8月29日以後に生まれた若者たち。

6週間のプログラムでドキュメンタリー映像や詩、被災者の体験談などを通じて20年前の悲劇を学んだ。

そしてその集大成として、研修生たちは市内のロウワー・ナインス地区の堤防に壁画を描いた。

この堤防が決壊して洪水が街を襲ったのだから、ここはまさにグラウンド・ゼロ(被災の中心地)とも言うべき場所だ。

研修生たちが描いた壁画は後世に災害の教訓を伝えるモニュメントというだけではない。見る人に強い衝撃を与える生命力あふれる作品だ。

「プロジェクト全体を包むテーマは追悼、神話、想像力だ」と、オダマスは本誌に語った。

研修生たちにはカトリーナについて学ぶだけでなく、「過去の物語を自分たちの物語にしてほしかった」と彼は言う。

「大事なのは過去の遺産、つまり街の歴史に自分たちをどう組み込むか、だ。想像力は未来を夢見る力でもある。彼らは未来のニューオーリンズをどんな街にしたいのか、が問われている」

2.世代をつなぐ声とアート

この問いに対する答えは完成した壁画だけでなく、その制作過程にも見いだせる。

カトリーナは甚大な被害を及ぼした。死者は1300人以上。ニューオーリンズは市域の約80%が浸水し、ルイジアナ州全域および近隣の州で100万人を超える人々が住み慣れた家を捨て他地域に避難した。

被害総額は推定1610億ドル。人口比に対し黒人と低所得層の死者数が著しく多いこともこの災害の特徴だ。

プログラムが始まった段階では、研修生はカトリーナのことをほとんど知らなかった。彼らの大半は親から被災体験を聞かされていなかったのだ。

プログラムはこれを「世代間ギャップ」と捉えるのではなく、「入り口」と位置付けた。

研修生たちは被災した市民の話を聞いた。語り手の中には、トランペット奏者のアービン・メイフィールドや詩人のサニ・パターソン、市議のオリバー・トーマスら地元の著名人もいて、個人的な体験をシェアしてくれた。

学びの総仕上げである壁画は、こうした体験者の語りに基づいたものだ。

カトリーナ以前、カトリーナ、カトリーナ後と未来の3つのセクションで構成され、当時の写真や記事の切り抜き、家族のアルバムなど追悼のモチーフを織り込みつつ、未来を構想させる作品になっている。

newsweekjp20250910095111.jpg

研修生が描いた壁画の前で思いを語るオダマス MARIO TAMA/GETTY IMAGES

「研修生は自分たちが望む未来のニューオーリンズを描いた」とオダマスは言う。

◇ ◇ ◇

記事の続きはメディアプラットフォーム「note」のニューズウィーク日本版公式アカウントで公開しています。

【note限定公開記事】ハリケーン「カトリーナ」から20年――災害を知らない子どもたちが描く未来


ニューズウィーク日本版「note」公式アカウント開設のお知らせ

公式サイトで日々公開している無料記事とは異なり、noteでは定期購読会員向けにより選び抜いた国際記事を安定して、継続的に届けていく仕組みを整えています。翻訳記事についても、速報性よりも「読んで深く理解できること」に重きを置いたラインナップを選定。一人でも多くの方に、時間をかけて読む価値のある国際情報を、信頼できる形でお届けしたいと考えています。


ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロ産原油、割引幅1年ぶり水準 米制裁で印中の購入が

ビジネス

英アストラゼネカ、7─9月期の業績堅調 通期見通し

ワールド

トランプ関税、違憲判断なら一部原告に返還も=米通商

ビジネス

追加利下げに慎重、政府閉鎖で物価指標が欠如=米シカ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中