「スモーク・テロワール」――山火事から生まれたワインの物語【note限定公開記事】
THE NEW SMOKE TERROIR

©2025 The Slate Group, PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. PHOTOS BY GETTY IMAGES PLUS―SLATE
<2020年、オレゴンを襲った山火事はワイン産業に大きな損失を残した。だが、その煙の香りをリスクではなく個性に変える造り手たちが現れた>
▼目次
1.灰の中から生まれる新しい発想
2.煙は欠点じゃなく個性
3.スモークを逆手に取る造り手たち
4.煙は不安とぬくもりのあいだに
1.灰の中から生まれる新しい発想
米西海岸オレゴン州のウィラメットバレーにある874のワイナリーにとって、2020年のビンテージは完璧な出来になるはずだった。
東にカスケード山脈、西に海岸山脈を抱くこの地域は理想的な気候で、ピノ・ノワールのブドウは順調に育っていた。
しかし夏が終わる頃、気候変動の影響で記録的な山火事が発生し、煙が渓谷を覆い尽くした。
繊細で多孔質なブドウは大気や土壌からあらゆるものを吸収するため、一帯のブドウは独特のスモーキーな香りや、時には苦味や刺激のある味を帯びた。
その結果、多くの生産者が数百トンのブドウを収穫せずに畑で腐らせざるを得なかった。
全米トップ5の規模を誇るオレゴン州のワイン産業は、この年だけで推定最大15億ドルの損失を出した。
しかし、灰の下から現れたのは腐敗と損失だけではなかった。
オレゴン州を含む多くの地域で山火事の煙が新しい常態(ニュー・ノーマル)となるなか、それにあらがうのではなく、「スモーク・テロワール」として共存を目指す新世代の造り手が出てきている。
スモーキーな風味を残した「ワイルドファイヤー・ワイン(山火事ワイン)」は、一時の話題で終わることはないだろう。
今年は上半期だけで既に、カリフォルニア州など主なワイン産地の畑40万ヘクタール以上でブドウが腐っている。
厳しい山火事のシーズンが待ち受けるなか、オレゴン産ワインの20年のビンテージは、気候変動の時代に適応するヒントを教えてくれる。
「20年のウィラメットバレーの真実の物語は、煙抜きには語れない」と、この地のワイナリー、シーニックバレー・ファームズの醸造責任者ガブリエル・ジェイグルは言う。
山火事がワインに及ぼす影響はオレゴン州だけの問題ではない。ある経済分析によると、20年に米西海岸のワイン産業が被った損害は総額37億ドルに上る。小規模なワイナリーは特に深刻な打撃を受けた。
「21年のビンテージのピノ・ノワールを出荷したときに、このワインがダメだったらもう終わりだと思った」と、ジェイグルは振り返る。
24年5月、オレゴン州の約30のワイナリーとブドウ園が、山火事防止の対策を怠ったとして、地域電力会社パシフィコープに1億ドルを超える損害賠償を求めて提訴した。
同年9月にはウィラメットバレーの3つのブドウ園が、山火事の煙と灰で収穫が台無しになったとして、別の2つの地域電力会社に1100万ドル超の損害賠償を求める訴訟を起こした。
2.煙は欠点じゃなく個性
幸い、煙の影響を受けたブドウも、健康上のリスクはスモークサーモンのベーグルサンドと同じくゼロに等しい。しかし科学的には、煙がブドウに与える影響については分かっていないことが多い。
まず、煙の影響は均一ではなく、ブドウの皮の厚さや火元からの距離によって異なる。
キャンプファイヤーを思い出してほしい。火から離れた所にテントを張っていれば煙のにおいはあまり付かないだろうが、火のそばでマシュマロをあぶっていたら何日か髪が煙臭いかもしれない。
ひとつ確かなのは、オレゴン州で栽培されるブドウの約7割を占めるピノ・ノワールが、特に煙の影響を受けやすいことだ。
これには製法が大きく関係していると考えられる。煙の化合物は主にブドウの皮に蓄積するため、皮ごと発酵させる赤ワインはそれらの化合物が果汁に溶け出しやすいのだ。
そこで、ワイン造りの基本は守りながら、より自然な方法で対処しようと実験を重ねる造り手もいる。
◇ ◇ ◇
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【note限定公開記事】「スモーク・テロワール」――山火事から生まれたワインの物語
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